ダニューブ文化(読み)ダニューブぶんか

改訂新版 世界大百科事典 「ダニューブ文化」の意味・わかりやすい解説

ダニューブ文化 (ダニューブぶんか)

中部ヨーロッパの新石器時代文化。ドナウ(ダニューブ)川下流域から,パリ盆地にかけての東西2000km余りの範囲にひろがっている。西アジアに起源をもつ農耕文化がヨーロッパ大陸へ伝わるには,地中海北岸伝いにイタリア,フランスへの経路とともに,ドナウ川沿岸の黄土地帯を西へたどる経路が主要ルートとなった。この点が重要視され,とくにイギリスの考古学者チャイルドの研究によって,ダニューブ文化の名が広まった。しかし現在では,この文化はドニエストル,ビスワ,オーデル,エルベ,ライン,マース,セーヌの諸川流域の黄土地帯にも分布することが知られており,ヨーロッパの学界では,むしろ帯文土器Bandkeramik文化と呼ばれる方が多い。地中海北岸においては,在地の人びとが,家畜飼育,貝殻文・押捺文土器,穀物栽培を,この順にひとつひとつ獲得して新石器文化を形成したのに対し(新石器時代),ダニューブ文化では,羊,ヤギ,牛,豚の飼育,小麦,大麦,豆の栽培,帯文土器の使用が,そろって同時に始まっている。また在来の中石器文化の人びとは,居住地域を異にし,かつ互いに種類も作りも違う石器を使っている。こうして新文化を担った人びとが到来してダニューブ文化が開花したことは確実視されている。

 ダニューブ文化の古い段階(チャイルドのいうダニューブI文化)は,炭素14法による測定年代で前4500~前3200年である。線帯文土器Linearkeramik,靴に似た形の磨製石斧,地中海産巻貝の装飾品,ロングハウス(長さ40m,幅6~7m),側面屈葬による埋葬という共通した特徴をもつチェコのビラニイBylany(プラハ東南東60km),ドイツのケルン・リンデンタール,オランダ最南部のシッタルトSittardなどの集落遺跡も知られている。また焼畑農耕を基盤とする農耕を営んだと考えられる。後半には石鏃も出現し,集落の周囲に環濠や土塁をめぐらすなど,軍事的緊張の存在を思わせる。新しい段階(チャイルドのダニューブII文化)にいたると,古い段階に共通の特徴を共有した全地域が,刺突帯文土器文化(ドイツ南東部,チェコスロバキア,ポーランド西部),レッセンRössen文化(チェコスロバキア西部,ドイツ中央部,フランス東部)をはじめとするいくつもの小さな地帯に分裂して青銅器時代を迎える。
執筆者:

出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

今日のキーワード

カイロス

宇宙事業会社スペースワンが開発した小型ロケット。固体燃料の3段式で、宇宙航空研究開発機構(JAXA)が開発を進めるイプシロンSよりもさらに小さい。スペースワンは契約から打ち上げまでの期間で世界最短を...

カイロスの用語解説を読む

コトバンク for iPhone

コトバンク for Android