日本大百科全書(ニッポニカ) 「テサロニケ書」の意味・わかりやすい解説
テサロニケ書
てさろにけしょ
The Epistles to the Thessalonians
『新約聖書』に収められているパウロの手紙。「テサロニケ人(びと)への手紙」とよばれ、第1、第2の2通からなるが、いずれもコリント滞在中の紀元51年から52年ごろにかけて、テサロニケの信者にあてて送られたと推定される。テサロニケはマケドニアに栄えた古代有数の大都市で、ローマ時代を通してマケドニア州の首都であった。現在のテッサロニキ(英名サロニカ)がそれである。良港に恵まれ、ローマと東方世界を結ぶ海陸交通の要地として繁栄し、ユダヤ人植民地を中心に、各地に会堂(シナゴーグ)が建てられていた。パウロは、こうしたシナゴーグを足場に伝道活動を行い、使徒時代以後にはキリスト教会の布教活動の中心地となった。第一の手紙には、テサロニケの教会に対するパウロの温かな思いが全編にあふれ、信者たちの愛の労苦に感謝し、彼らの信仰の働きを模範として賛美しているが、第二の手紙では、信者に対する迫害と患難を憂い、キリストの再臨についてのパウロのせつせつたる思いが、終末論的信仰を通して力強く訴えられている。わけても、主の来臨に先だって、背教者が現れ、自ら神と名のる不法者によって教会が味わう苦難に対し、パウロは、いかなる患難も悩みも栄光の主の力の前には無力であり、キリストを信ずるすべての者に究極の勝利と慰めが約束されていることについて語っている。
[山形孝夫]