憂い(読み)ウイ

デジタル大辞泉 「憂い」の意味・読み・例文・類語

う・い【憂い】

[形][文]う・し[ク]
自分の思うようにならないで、つらい。苦しい。「―・いもつらいもうての上」
ある状態をいとわしく、不愉快に思うさま。わずらわしい。気が進まない。
「古代の親は、宮仕へ人はいと―・き事なりと思ひて過ぐさする」〈更級
つれない。冷たい。
「―・かりける人こそあらめあかつきの雲さへ峰になど別るらん」〈風雅・恋二〉
悩ましい。せつない。心苦しい。
「有明のつれなく見えし別れより暁ばかり―・きものはなし」〈古今・恋三〉
動詞の連用形に付いて、…するのがつらい、…するのがいやだ、などの意を添える。
「ここをまた我住み―・くてうかれなば松はひとりにならむとすらむ」〈山家集・下〉
[派生]うさ[名]
[類語]びんびん切切せつせつ痛切切実深刻ひしひしつくづくしみじみじいん心からせつ辛い苦しい耐えがたいしんどい苦痛である切ないやりきれないたまらないる瀬ない悲しい物悲しいうら悲しい痛ましい哀れ哀切悲愴ひそう悲痛悲傷沈痛もの憂い断腸の思い胸を痛める胸が痛む胸が塞がるけだるいアンニュイ胸が裂ける胸が張り裂ける胸がつかえる胸が潰れる胸がつまる気を重苦しい滅入る気遣わしい塞ぐ塞ぎ込む消沈しょげるしょげ返る沈む憂鬱憂愁沈鬱メランコリー気鬱気塞ぎ鬱鬱陰鬱暗鬱鬱屈鬱結鬱気うっき鬱悶うつもん鬱積抑鬱憂さ鬱陶しい悶悶もんもん

うれい〔うれひ〕【憂い/愁い/患い】

《「うれえ」の音変化》
予測される悪い事態に対する心配・気づかい。うれえ。「後顧の―」
嘆き悲しむこと。憂鬱ゆううつで心が晴れないこと。うれえ。「―に沈んだ顔」
[補説]ふつう1は「憂い」、2は「愁い」と書く。また、中世以降「うれえ」に代わって「うれい」の語形が多く用いられるようになり、現在は「うれい」が一般的。
[類語]考え事思案物思い考え心配気疲れ気苦労心痛心労懸念恐れ憂慮取り越し苦労杞憂悲観恐れる不安危惧きぐ危懼きく疑懼ぎく胸騒ぎ気がかり心がかり不安心心細い心許こころもとない気遣いわずら怖い危なっかしい頼り無いおののく動揺心騒ぎ煩慮憂惧ゆうぐ憂懼ゆうく憂い事気遣わしい痛心鬼胎ひやひやはらはらどきどきおどおどあぶなあぶな恐る恐るこわごわおっかなびっくりおじおじおずおずびくびくこわがる臆するおびえるびくつくおじるおじける恐怖恐れをなす悪びれる案ずる気が気でないそぞろ足が地につかない気が揉める居ても立ってもいられない矢も楯もたまらない居たたまれない生きた心地もしない気になる気に病むおぼつかない

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精選版 日本国語大辞典 「憂い」の意味・読み・例文・類語

う・い【憂】

  1. 〘 形容詞口語形活用 〙
    [ 文語形 ]う・し 〘 形容詞ク活用 〙
  2. [ 一 ] 物事が思いのままにならないことを嘆きいとう心情を表わす。また、そのような心情を起こさせる物事の状態についても用いる。
    1. ある状態をいとわしく、不愉快に思うさま。いやだ。煩わしい。気に入らない。
      1. [初出の実例]「世の中を宇之(ウシ)と恥(やさ)しと思へども飛び立ちかねつ鳥にしあらねば」(出典万葉集(8C後)五・八九三)
      2. 「今までとまり侍るがいとうきを、かかる御使の、よもぎふの露分け入り給ふにつけても、いと恥づかしうなむ」(出典:源氏物語(1001‐14頃)桐壺)
    2. 心が重苦しく閉ざされたさま。気持ちの晴らしようがなくて、つらく、やりきれない。
      1. [初出の実例]「逢はなくも懈(うし)と思へばいやましに人言繁く聞こえ来るかも」(出典:万葉集(8C後)一二・二八七二)
      2. 「海はなほいとゆゆしと思ふに、まいて海女のかづきしに入るはうきわざなり」(出典:枕草子(10C終)三〇六)
    3. つらい、やりきれないと思うような不本意な状態。自身にとっては、不遇、不運を嘆く意となり、他に対しては、みじめなさま、無残なさまを気の毒に思う意となる。
      1. [初出の実例]「身のうきをもとにてわりなきことなれどうちすて給へるうらみのやるかたなきに」(出典:源氏物語(1001‐14頃)明石)
    4. 人につらいと思わせるような相手の状態。無情だ。冷淡だ。
      1. [初出の実例]「あまのとをおし明けがたの月みればうき人しもぞ恋しかりける〈よみ人しらず〉」(出典:新古今和歌集(1205)恋四・一二六〇)
  3. [ 二 ] 動詞の連用形に付いて補助的に用いる。
    1. そうすることがためらわれる、いやだ、おっくうだなどの意を添える。
      1. [初出の実例]「はかなくてゆめにも人をみつるよはあしたのとこぞ起きうかりける〈素性〉」(出典:古今和歌集(905‐914)恋二・五七五)
    2. うしていることがやりきれない、つらいなどの意を添える。
      1. [初出の実例]「ここをまた我住みうくてうかれなば松はひとりにならんとすらん」(出典:山家集(12C後)下)

憂いの語誌

( 1 )「倦(う)む」と同根か。「万葉」では数例であるが、「古今」以後用例は増加し続け、八代集全体では数量ともに「なし」に続く第二位、日記物語でも多用される。
( 2 )類義語の「つらし」が他人が冷淡・無情であるのを恨む外因的なものであるのに対して、「うし」は内因的で思いのままにならない状況環境を自分のせいだととらえる。中世になるとこの区別が薄れ、やがて「つらし」に併合されていく。

憂いの派生語

う‐が・る
  1. 〘 他動詞 ラ行四段活用 〙

憂いの派生語

う‐げ
  1. 〘 形容動詞ナリ活用 〙

憂いの派生語

う‐さ
  1. 〘 名詞 〙

憂いの派生語

う‐み
  1. 〘 名詞 〙

うれいうれひ【憂・愁・患】

  1. 〘 名詞 〙 ( 「うれえ」の変化した語 )
  2. 苦しいこと、つらいこと。
    1. [初出の実例]「休左遷愁(ウレイ)早令帰洛之本懐」(出典:平松家本平家(13C前)二)
    2. 「Vreiuo(ウレイヲ) モヨヲス〈略〉 Vreiuo(ウレイヲ) フクム」(出典:日葡辞書(1603‐04))
  3. ( 形動 ) わざわい。難儀。不安。また、心配なさま。
    1. [初出の実例]「エンリョノ ナイモノワ カナラズ チカイ vreiga(ウレイガ) アル モノヂャ」(出典:天草本伊曾保(1593)燕と諸鳥の事)
  4. 何となく心にはいりこんでくる物悲しさ。感傷的な気分。物思い。憂愁。
    1. [初出の実例]「夕陽の時分は、ことさら旅客の愁い切なる折節也」(出典:中華若木詩抄(1520頃)中)
    2. 「遣方(やるかた)も無き憂愁(ウレヒ)から出たこの気なし」(出典:めぐりあひ(1888‐89)〈二葉亭四迷訳〉二)
  5. ( 「不安の原因」の意から ) 不吉なこと。不祝儀。
    1. [初出の実例]「生花といふものは取合せが大事じゃ。〈略〉挿し様が悪いと、うれいに成て殿様の躾方」(出典:歌舞伎・幼稚子敵討(1753)六)
  6. 嘆き悲しむこと。憂鬱で心が晴れないこと。
    1. [初出の実例]「そことなき櫂のうれひの音(ね)の刻み…涙のしづく…頬にもまたゆるきなげきや」(出典:邪宗門(1909)〈北原白秋〉魔睡・十月の顔)

憂いの語誌

( 1 )古くは「うれへ」で、中世以降次第に「うれい」が用いられるようになり、明治以降、特に近代詩歌においては「うれい」が圧倒的に優勢となる。
( 2 )「うれ」は、「うらむ」「うれたし」などと同様に「うら(心)」と同根か。本来、相手に苦しみを訴える能動的な気持が強かったが、「憂」「愁」などの訓としても用いられたところから、自分の心の中の「憂愁」を表現するようにもなったと考えられる。
( 3 )西欧の影響を受けた明治以降の日本の近代詩に見られる「うれい」は、上田敏の「海潮音」で、フランス語 ennui などの訳語として用いられた「憂愁」「鬱憂」に源を発していると思われる。

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