日本大百科全書(ニッポニカ) 「トリクルダウン理論」の意味・わかりやすい解説
トリクルダウン理論
とりくるだうんりろん
trickle-down theory
富める者が富めば、貧しい者にも自然に富が浸透するという考え方。トリクルダウン効果(仮説)ともいう。大企業や富裕層への税の優遇、大型の公共投資などが経済活動を活性化させ、めぐりめぐって低所得層も豊かになり、社会全体の利益になるという政治的な主張である。トリクルダウンは英語で「徐々に滴り落ちる」という意味で、より日本語の感覚に近い言葉に直すと「おこぼれ」となる。アメリカでは共和党右派などの新自由主義者が主張、富裕層への増税に反対し、生活保護、医療保険をはじめとする社会福祉政策に対しても消極的な立場をとっている。
1980年代に中国を率いた鄧小平(とうしょうへい)が提唱して推し進めた「一部の人、一部の地域が先に豊かになれば、最後には共に豊かになる」という共同富裕論は、この典型例とされている。また、第二次世界大戦後の日本で行われた、エネルギーや素材分野の設備投資に資金を集中させる「傾斜生産方式」による一部産業への優遇策を一種のトリクルダウン理論を用いた政策とみて、それが後の経済成長を支え、国民全体の所得を引き上げたとする説がある。しかし、経済構造が複雑化している現状では、この政策をとることにより貧富の格差がいっそう拡大し、社会不安が増すケースが多く、説得力を欠いた主張とする見方が多い。
[編集部]