トロイア戦争記(読み)トロイアせんそうき(その他表記)Ephemeris belli Troiani

改訂新版 世界大百科事典 「トロイア戦争記」の意味・わかりやすい解説

トロイア戦争記 (トロイアせんそうき)
Ephemeris belli Troiani

クレタ島のディクテュスDiktysの作と称せられる偽書。ルキウス・セプティミウスLucius Septimiusなる人物(4世紀?)のラテン訳全6巻によって今日に伝わる。その巻頭に付された書簡および序文によれば,本書はもともとトロイア戦争に参加したギリシア方の武将,クレタ王イドメネウスIdomeneusの従者ディクテュスが主命によって書きとどめた戦争の記録文書(ephemerisは〈日誌〉の意)で,久しくクノッソス地中に埋もれていたものがたまたま皇帝ネロの治世第13年(後66)に発見され,その際まず原文のフェニキア文字がギリシア文字に改められ,その後さらにセプティミウスの手でラテン語に直されたという。原著からラテン訳成立に至るまでのこうした経緯は,従来まったくの虚構として顧みられることがなかったが,19世紀末,本書の一部を記したギリシア語のパピルス断片(3世紀前半)が発見されるに及んで,ディクテュス原作者説は論外にせよ,少なくとも本書のギリシア語原本が2~3世紀ころに書かれたことは確実視されるにいたっている。このほか,《トロイア戦争記》よりは少し後の作品で,これまたラテン訳で伝わる同種の偽書に,フリュギア人ダレスDarēs作と称せられる《トロイア滅亡史De excidio Troiae historia》があり,いずれも文学的価値こそ乏しいものの,10年にわたるトロイア戦争の一部始終委細をつくして語っているところから,1160年ころ,フランスの詩人ブノア・ド・サント・モールの《トロイ物語》に利用されたのを皮切りとして,両書はトロイア伝説に筆を染めた中世ヨーロッパの文学者たちに,きわめて大きな影響を及ぼした。
トロイア戦争
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