改訂新版 世界大百科事典 「ブノアドサントモール」の意味・わかりやすい解説
ブノア・ド・サント・モール
Benoît de Sainte-Maure
12世紀フランスの作家,歴史家。生没年不詳。トゥーレーヌ地方の出身。1165-70年ころ,いわゆる古代模倣物語のジャンルに属する長編韻文作品《トロイ物語Roman de Troie》を書いて大成功を収めた。これは,金羊毛を求めるアルゴ船の冒険(アルゴナウタイ伝説)から始まって,トロイアの城市の攻囲と陥落の次第,そしてオデュッセウスの死までを,8音綴3万行余りにわたって物語る。主たる種本はフリュギア人ダレス,クレタ人ディクテュスに帰せられるいずれもラテン語の作品であるが,ブノアはとくに恋愛のエピソードをふくらませることに才能を示し,この作品はフランス文学における恋愛物語のさきがけの一つとされている。なお,この作品を献じたアリエノール・ダキテーヌと結婚したイギリス王ヘンリー2世の命をうけ,1170年ころ《ノルマンディー公年代記》(ワースの《ルー物語》の続きにあたる)執筆に携わったが,4万3000行まで書き継いだものの未完に終わった。
執筆者:天沢 退二郎
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報