改訂新版 世界大百科事典 「ドル不足」の意味・わかりやすい解説
ドル不足 (ドルふそく)
dollar shortage
第2次大戦直後の4~5年間,アメリカ以外の国が国際的決済手段としてのドルに不足していた状況のこと。市場経済の原則が支配している国際社会において,一国の国際収支の状況は,基本的にはその国の個別経済主体と外国のそれとの間に自発的に行われる財とサービスの取引および資本のやりとりによって生じる受取り,支払の集計額によって定まる。この意味での国際収支が赤字であるという状況は,その国が以前から保有している対外準備を取り崩すことにより,あるいは市場を経由することなしにこの赤字分を補う受取りを得ることによって可能となる。
第2次大戦が終わった直後の数年間において,アメリカ以外の主要国の国際収支は上述の意味で赤字基調にあった。当時は民間資本の国際移動は僅少であったから,この事態はアメリカとその他諸国との間の貿易収支に大きな不均衡が存在したことによってもたらされていたといってよい。そしてその時期には国際的決済は主としてアメリカの通貨であるドルによって行われていたから,この状況はその他諸国の側からみればドル不足とされたのである。この不足分は,アメリカ政府が行った経済援助と外国における軍事支出とによって主として補われていた。この状況は1950年に始まった朝鮮戦争の時期から変化しはじめ,50年代の半ばにはアメリカの貿易黒字とその他諸国の貿易赤字とがともに減少するという形で,ドル不足は解消した。
執筆者:嘉治 元郎
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報