ニュージーランド銃乱射事件(読み)にゅーじーらんどじゅうらんしゃじけん(にせんじゅうきゅう)

知恵蔵 の解説

ニュージーランド銃乱射事件(2019)

ニュージーランド南島の最大都市クライストチャーチで、白人至上主義の男性によって引き起こされた銃乱射事件。2019年3月15日、市内2カ所のモスクで、オーストラリア出身のブレントン・タラント容疑者(28歳)が半自動小銃を乱射し、50人を殺害した。容疑者は多くのイスラム教徒が集まる金曜日(礼拝日)を狙ったものと見られる。犠牲者の大半は中東や南アジア出身の移民で、3歳の幼児も含まれていた。事件後、タラント容疑者とオーストラリアの極右団体「アイデンティタリアン運動」との関係が明らかになったが、捜査当局はローンウルフ型の単独犯と判断。タラント容疑者は4月5日までに、50人の殺人と39人への殺人未遂の罪で起訴された。
この襲撃事件が注目されたのは、「多民族共生」を掲げるニュージーランドで起こったことに加え、SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)を活用したことにある。タラント容疑者は事前にインターネットの掲示板でモスク衝撃を予告し、犯行声明文や自身のFacebookのアカウントも公表していた。広く注目を集め、移民排斥の主張を拡散させることが目的と見られる。更に襲撃の一部始終を自身のアカウントでライブ中継した。17分間の映像は約1時間後に削除されたが、またたくまに拡散された。フェイスブック社によると、犯行から24時間で約150万本を確認・削除したという。しかし、その後もYou TubeやTwitterへの転載が繰り返され、ネット上の監視・チェック体制やフィルタリング限界を露呈することになった。
事件の翌日、事件現場を訪問したニュージーランドのジャシンダ・アーダーン首相は記者会見を行い、「多民族共生」に基づく多様性の意義を強く訴え、更に数日後の閣議後、銃規制強化の方針も発表。議会もこれを受け、4月10日に軍仕様の半自動小銃や一部の散弾銃などの使用・流通を禁止する「銃規制改革法案」をほぼ全会一致で可決した。

(大迫秀樹 フリー編集者/2019年)

出典 (株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」知恵蔵について 情報

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