ハインリヒ・フォン・オフターディンゲン(英語表記)Heinrich von Ofterdingen

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 の解説

ハインリヒ・フォン・オフターディンゲン
Heinrich von Ofterdingen

ドイツの詩人ノバーリス未完の小説。 1802年刊。『青い花』の訳名で知られる。時は中世,ある夜夢に見た青い花の中の少女を求めて旅に出た主人公ハインリヒが,いろいろな体験を経て詩人として成長する過程を描く (第1部「期待」) 。詩と愛と信仰とによる現実からの解放がこの作品の主題であり,ここで詩人のあり方が高らかに宣言される。第2部「成就」ではその詩人の活躍と栄光が描かれるはずであったが,第1章のなかばで中断されたままに終った。ゲーテの『ウィルヘルム・マイスター』に対抗して書かれたこの作品はノバーリスの最高傑作であるばかりでなく,ドイツ・ロマン主義の代表作であり,彼のいう「魔術的観念論」の結晶といえる。ロマン的憧憬象徴として現れる「青い花」の名はドイツ・ロマン主義の異称として,以後広く浸透した。

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世界大百科事典(旧版)内のハインリヒ・フォン・オフターディンゲンの言及

【オフターディンゲン】より

…むしろ本作品の最初の作者と考える方が自然であり,少なくとも中世では実在詩人として言及されてきた。作中に虚構された〈歌合戦〉がチューリンゲンの年代記,聖エリーザベト伝等のなかで語りつがれたため,歌合戦伝説の主人公として人口に膾炙し,とくに19世紀初頭ノバーリスの《ハインリヒ・フォン・オフターディンゲン》(邦訳,青い花)によって理想的詩人像が創造されて以来,ホフマンをはじめロマン派の作家たちは好んでこの詩人伝説を題材にとりあげ,それに刺激されて文学史家もこの詩人の素姓について種々の憶説をたてたが,いまだに定説がない。ドイツ文学史およびその研究史の中で特異の位置を占める人物である。…

【ワルトブルクの歌合戦】より

…R.ワーグナーの楽劇《タンホイザー》によって一般に知られるが,伝説の原型は,ウォルフラムを崇拝する亜流詩人たちによって13世紀中ごろないし後半に作られたと推定される中世ドイツ語の論争詩に由来する。チューリンゲン方伯ヘルマンHermann von Thüringenをたたえる詩人たち(ウォルフラム,ワルター・フォン・デル・フォーゲルワイデ,ラインマルReinmar von Zweter,ビテロルフBiterolf,書記)を相手に,ハインリヒ・フォン・オフターディンゲンがひとりオーストリア公レオポルトを称賛して敗れる前編を〈君主賛美〉,クリングゾルKlingsorのかける宗教上のなぞをウォルフラムが次々と解いて勝利を収める後編を〈なぞかけ〉,両者を合わせて〈ワルトブルクの歌合戦〉と呼ぶが,これは19世紀以降に研究の便宜上つけられた表題である。本作品のテキスト批判,解釈には未解決の問題が多く,その成立の事情は,オフターディンゲンの素姓と同様なぞに包まれている。…

【青い花】より

…ドイツ・ロマン派のノバーリスの小説《ハインリヒ・フォン・オフターディンゲン》(未完,1802発表,邦訳名《青い花》)の冒頭で主人公ハインリヒが見る〈青い花〉の夢に由来する語。〈青い花〉の形姿は少女マティルデの形姿と重なり,同時に生と死を超越する〈永遠なるもの〉を暗示する。…

【教養小説】より

…また,ヘルダーリンの《ヒュペーリオン》(1797,99)の主人公は,自由な個人の存在を可能にする理想の国家の実現をめざしてギリシア独立戦争に参加しながら,戦争の現実に絶望して隠者となり,自然の美しさのなかにわずかな慰めを見いだす。また,ノバーリスの《ハインリヒ・フォン・オフターディンゲン》(1802,邦訳名《青い花》)は〈期待〉と〈実現〉の二つの部分からなるが,〈実現〉は未完のままで終わっている。これらの教養小説は,自己形成が既存の社会のなかでは不可能であることをその結末において示していることになるが,それだけでなく,《ウィルヘルム・マイスター》の〈遍歴時代〉や《ハインリヒ・フォン・オフターディンゲン》の〈クリングスオール・メルヘン〉の場合には,その構成がきわめて複雑にならざるをえなかったことが,主人公の自己形成の可能性を追求することの困難を告白しており,また《ヒュペーリオン》にはドイツの社会の現実に対する呪詛が書きこまれている。…

※「ハインリヒ・フォン・オフターディンゲン」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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