改訂新版 世界大百科事典 「ハリシュチャンドラ」の意味・わかりやすい解説
ハリシュチャンドラ
Bhāratendu Hariścandra
生没年:1850-85
インドの文学者。ベナレス(ワーラーナシー)の豪商の子で,35歳の若さで世を去ったが,近代ヒンディー文学の創始者として不朽の名を残した。15歳のときに聖地ジャガンナートに巡礼に行った際,途中のカルカッタでイギリスから導入された近代文明に接し,大きな衝撃をうける。以来インド各地を歩いて,現状をつぶさにみて新しいいぶきにふれた。10代の末ごろから文筆活動をはじめ,詩,戯曲,評論,随筆などの分野で創作と翻訳・翻案を行う。その際の主題と文学技法上の範を多くは,古典語のサンスクリットとよりはやく近代を迎えつつあったベンガル文学,マラーティー文学からとった。それらで彼が訴えたのは,インドの伝統の再興と民族意識の高揚の必要であった。そのほかヒンディー語雑誌を発刊して幾多の俊英を育てるなど,近代を開拓した功績が大きいが,言語的には詩作は前代の詩語ブラジュ・バーシャーにより,評論と戯曲では注目され始めたカリー・ボーリー(共通ヒンディー語の母胎となった言語)によるという二重性を残した。
執筆者:坂田 貞二
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報