改訂新版 世界大百科事典 「バルトスラブ語同系問題」の意味・わかりやすい解説
バルト・スラブ語同系問題 (バルトスラブごどうけいもんだい)
インド・ヨーロッパ語族中の二つの語派--バルト語派とスラブ語派--の間には,語彙の面でも,文法の面でも共通の要素があり,しかも同語族の他の語派とは異なっている。例えば〈土地〉を意味する語は,スラブ祖語で*zeḿa(古代スラブ語,セルビア・クロアチア語,スロベニア語zemlja,ポーランド語ziemia,チェコ語země,ロシア語,ウクライナ語zemljá)であるのに対して,バルト語派のリトアニア語ではžemė,ラトビア語ではzemeである(なお同じインド・ヨーロッパ語族の他の語派の言語,たとえばラテン語ではhumus〈土〉,ギリシア語ではchamai〈地上で〉である)。また文法では,格が七つあること,否定生格(属格)があること,具格補語のあること,形容詞に複合的曲用のあることなどが共通している。この共通性を一部の学者は共通の起源とみて〈バルト・スラブ語派〉という主張をするのに対し,一部の学者は長期間にわたる隣接による〈言語同盟〉と考えている。各学者によりそれぞれニュアンスの違いはあるが上記の二つの見解がその両端にあり,この分野の専門家の見解はほぼ二分されている。この論争はすでに長い歴史をもつがいまだに解決をみない問題である。
→スラブ語派 →バルト語派
執筆者:千野 栄一
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報