改訂新版 世界大百科事典 「パランデュシャトレ」の意味・わかりやすい解説
パラン・デュシャトレ
Alexandre-Jean-Baptiste Parent-Duchatelet
生没年:1790-1836
フランスの医学者。公衆衛生学の基礎となる多様な調査を行い,とくに都市パリの病める状態を具体的な観察とデータによって明らかにした。17歳でパリに出て医学を学び,1814年に博士号を取った後,数年間を開業医として過ごした。しかし治療にあたるなかで,当時の医学の研究成果には誤りが多いことに気づき,確実性のある研究分野を求めて,21年より公衆衛生の調査研究を行うようになった。その調査対象は主としてパリの多様な都市施設で,下水道,し尿投棄場,便所,廃馬処理場,解剖室,河川,汚染源となる工場など,いずれも増大する人口を支えきれなくなった施設の実態と改善策を提出するものであった。その研究の特徴は,第1に実用性を強く意識して行われたこと,第2に実態の詳細な観察の結果を統計数字によって客観化しようとしたこと,第3に過去の資料を細かく検討したことにある。警視総監をはじめとするパリの管理者は,その支配に直ちに役立つこの研究に注目していたし,また,彼自身は自分の役割をパリ市当局者と住民との間の調停者と位置づけていた。主著《パリの売春について》2巻(1837)は,現在も貴重な文献として注目されている。
執筆者:喜安 朗
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報