地方自治法上,普通地方公共団体の人的構成要素をいう。自然人たると法人たるとを問わず,また,人種,国籍,性別,年齢,行為能力のいかんを問わず,市町村の区域内に住所を有する者はその市町村およびこれを包括する都道府県の住民となる(地方自治法10条1項)。地方公共団体は,住民自治の理念に基づき,地域社会の公共事務をその地域社会の住民みずからが処理するために設けられた一種の統治団体であるが,住民は,このような地方公共団体の人的構成要素であるとともに,地方自治運営の主体たる地位を与えられている。
住民は,法律の定めるところにより,その属する地方公共団体の役務の提供をひとしく受ける権利を有し,その負担を分任する義務を負う(10条2項)。これが住民の基本的な権利義務である。いいかえると,住民の属する地方公共団体が義務と責任を負って実施し,提供する各種の公共事務や役務を,住民は,何人も同じ資格で平等に享受でき,地方公共団体はその反面,役務提供を公正かつ平等に行う義務を負っている。他方,住民は,地方公共団体がこのような行政を行うのに必要な経費(地方税,分担金,使用料,手数料等)を平等に負担する義務を負うのである。
明治憲法下の地方制度においては,市町村住民のうち,一定の資格要件をそなえた者のみが市町村公民とされて,市町村行政に参与することを認められていた。しかし,地方自治を憲法の制度として保障した日本国憲法下においては,日本国民たる住民すべてに,各種の参政権(地方自治行政に参与する権利)が認められている。これらの参政権はいずれも日本国民(日本の国籍を有する者であり,外国人と法人は除かれる)たる住民に保障された権利であり,(1)地方公共団体の長および議会の議員を直接選挙する権利(憲法93条,地方自治法11条),(2)地方自治特別法(一つの地方公共団体のみに適用される特別法)に対して同意する権利(憲法95条),(3)条例の制定改廃および事務の監査(〈監査請求〉の項を参照)を請求する権利(地方自治法12条),(4)議会の解散請求権,および,議会の議員,長,副知事もしくは助役,出納長もしくは収入役,選挙管理委員もしくは監査委員または公安委員会の委員,教育委員会の委員などの主要公務員の解職請求権(13条),などである。
なお,アメリカにおける納税者訴訟taxpayers'suitをモデルとして導入された住民監査請求および住民訴訟の制度は,住民自治を基礎として地方自治行政に対する住民の民主的統制権を認めた重要な制度であるが(242条,242条の2),上記の参政権とは異なり,日本国民たる要件を必要とせず,すべての住民はこの制度を利用することができる。
→市民参加 →住民票
執筆者:福家 俊朗
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
法令上、地方公共団体の人的構成要素であり、市町村の区域内に住所、すなわち生活の本拠をもつ者をいう。市町村の住民は、同時にこれを包括する都道府県の住民とされる(地方自治法10条1項)。自然人たると法人たるとを問わず、また、国籍、性、年齢のいかん、および行為能力のいかんを問わない。住民は、住民として一定の権利と義務をもつ。一般的には、その属する地方公共団体の役務の提供を等しく受ける権利と、その負担を分任する義務である(同法10条2項)。地方公共団体は、各種の公の施設を設置するほか、公的扶助、社会福祉その他多様なサービス・給付を住民に対して行ったり、行う義務が課されている。住民はこれらの役務を平等に享受でき、地方公共団体はその役務提供を公正かつ平等に行う義務を負う。その反面、住民には、その行政に要する経費を平等に(原則として、負担能力に応じて)負担する義務がある。ただし、住民の権利・義務の具体的内容は法律の定めるところによる。なお、住民のうち、日本国民であり、同時に一定の要件を具備する者については、地方公共団体の長や議会の議員を直接選挙する権利(憲法93条、地方自治法11条)、条例の制定・改廃および事務の監査を請求する権利(地方自治法12条)、議会の解散請求権および主要公務員の解職請求権(同法13条)、および住民監査請求・住民訴訟の権利(同法242条・242条の2)などが認められている。
[福家俊朗]
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
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