日本大百科全書(ニッポニカ) 「ヒトノミ」の意味・わかりやすい解説
ヒトノミ
ひとのみ / 人蚤
human flea
[学] Pulex irritans
昆虫綱ノミ目(隠翅(いんし)目)ヒトノミ科に属する昆虫。体長は雄約2ミリメートル、雌約3ミリメートルで、ほとんど世界中に分布し、ヒト、イヌ、ネコ、ネズミ類などに寄生する。ヒトには吸血時に痛みを与え、血管内に挿入された口器から出る唾液(だえき)によって発赤、腫脹(しゅちょう)を生じる。また、まれにはペスト菌を人体に感染させることがあり、衛生害虫として重要である。体形は左右から圧せられたような扁平(へんぺい)である。ほかの多くのノミ類にみられるような頬(ほお)や前胸部後縁にみられる棘歯(きょくし)の列(櫛(くし))がない。目は一般昆虫類にみられるような複眼構造をもたず、単眼状であり、単に明暗を識別できる程度のものである。後肢による跳躍は、ノミ類中でも抜群で、その跳躍力を利用して吸血後は速やかに逃避する。かつてヨーロッパ諸国や中国などでノミのサーカスに使われたのはヒトノミである。卵は乳白色の楕円(だえん)形で、一匹の雌は400個以上の卵を産む。幼虫は乳白色のウジ型で、目や脚(あし)がなく、畳の下やごみのなかで成育する。幼虫は3回の脱皮ののちに蛹(さなぎ)となる。蛹は繭をかぶるが、ときには繭をつくらずに蛹化(ようか)することもある。
[阪口浩平]