改訂新版 世界大百科事典 「ひとりね」の意味・わかりやすい解説
ひとりね
文武二道にたけ,諸芸に通じ,人の師たるに足れる芸十六に及ぶといわれた風流人,大和郡山柳沢藩家老柳沢淇園(きえん)の随筆。近世を通じて刊行されることなく,写本をもって行われた。成立は,序文によれば,主家柳沢家の甲府から大和郡山への移封があった1724年(享保9),淇園21歳のおり,城受取役の一人として先発した彼が,彼地九条において日々の無聊(ぶりよう)の慰めに筆を執ったことに始まるという。内容は,絵画,和歌,俳諧,琴,尺八,三味線など諸事芸能にわたるが,なかでも,遊女と遊びの道に多くをさき,彼の多趣味,ことにこだわらぬ風流人士ぶりを読み取りうるだろう。本書の語る恋愛哲学は,時世相を反映しつつ,通人淇園の面目躍如たるものがある。出口のない封建制下の鬱屈した青年のささやかな反抗というべきか。
執筆者:松田 修
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報