改訂新版 世界大百科事典 「ビンディヤ山脈」の意味・わかりやすい解説
ビンディヤ[山脈]
Vindhya Range
インド中央部,断続的ながらインド半島をほぼ全域にわたって東西に横断する山脈。全長約1000km。標高500~1000m,最高点でも1113mにすぎないが,南側は急崖でナルマダー川の地溝に落下する。このため,古くからデカン高原を北インドから隔離する重要な障壁をなし,現在でも北側のインド・アーリヤ系と南側のドラビダ系の民族分布の重要な境界となっている。北側はマールワ台地に向かって低下し,そこをガンガー(ガンジス)川水系のチャンバル,ベトワ,ケン,ソーンなどの大河川が北流する。東部はカイムルKaimur山地として知られ,ワーラーナシー市近くでガンガー平原に消える。この山脈を構成するのは先カンブリア時代の砂岩層であり,結晶質岩石類の上にほぼ水平に横たわるので,同山脈の地形は平たんな山稜と階段状斜面からなる。現在3本の山脈横断鉄道があり,インドール,ボーパール,ムルワラはそれぞれの沿線にある山脈上の重要都市である。
執筆者:藤原 健蔵
インド神話におけるビンディヤ山脈
かつてビンディヤの山神はヒマラヤの高さをねたみ,太陽神スーリヤがメール山のまわりを回転するように,自分のまわりを回ってくれと頼んだが,スーリヤがそれを拒んだので,太陽の光を遮るため頭を上げてヒマラヤより高くそびえた。そこで神々はビンディヤの師アガスティヤ仙にそれを止めるように頼んだ。アガスティヤはビンディヤのところに行き,自分の前に頭を低くして北から南へ往復する道を開けと命じた。ビンディヤは命に従って頭を低く垂れたが,アガスティヤはその道を通ったまま戻ってこなかったので,ビンディヤはそれ以来ヒマラヤの高さに及ばなくなったという。またビンディヤ山にすむ水牛の姿をした悪魔マヒシャは,シバ神の神妃ドゥルガーに殺され,この山はドゥルガー女神の住所となった。そのためドゥルガーのことを〈ビンディヤ・バーシニー〉(〈ビンディヤに住む女〉の意)と呼ぶようになったという。
執筆者:田中 於莵弥
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報