地球表面の形態をいう。地形学geomorphology(〈土地の形態学〉の意)は,海面上の土地すなわち陸地の形を研究対象として扱ってきたが,最近は海底の地形の知識が増してきたため,これらを含めて対象とせざるをえない状況にある。月や火星,金星など固体の表面をもつ天体の地形の細部が,人工衛星の探査の結果知られるにつれて,地形学の知識により,これらについても適当な解釈が試みられるようになった。
地形の把握は観察や生活体験から得られるのが普通であるが,広く客観的にみるには各種縮尺の地形図,宇宙画像,空中写真等が必要となる。この場合同じ地形といっても,把握される規模の大小によって認識される内容が大きく異なり,地形規模により大・中・小・微地形に分けて考えられている。大陸移動説の論拠となったような,南アメリカ大陸東岸とアフリカ大陸西岸のそれぞれの海岸線の特徴から,両大陸の接着を想定し,その整合性を論ずるような場合は〈大地形〉を扱っていることになる。大陸核であるローレンシア楯状地,アメリカ大陸の西縁を占めるコルディレラ山系などの地形単位も〈大地形〉である。日本の例では関東平野,中国山地は大地形としても扱えるから,大地形の概念はかなり幅広い地形の範囲を含む。武蔵野台地などの洪積台地,多摩川低地などの沖積低地は〈中地形〉の規模であり,その中の扇状地,三角州などの地形単位は〈小地形〉と考えてよい。さらに例えば三角州を構成する自然堤防,後背湿地,蛇行跡,砂丘などの地形要素は〈微地形〉である。微地形の場合でも,微地形を構成する部分に,例えば砂丘ではこれを構成する斜面にさらに分解して考察する立場がある。このように地形は目的により規模を異にして認識する対象であるが,互いの規模の境界は相対的,可変的なものである。ほかに,大地形を構造地形に,小地形を浸食地形に当てはめるような用語法もある。
地形図で示される地形topographyは,第一義的には高度や斜面の向きで示される土地の形態であり,その性質や成因には立ち入らない。地形学の地形land form,geomorphologyは後者を含めた意味で扱われる。地図には地物の平面配置だけを示す求積地図(平面地図)に対して,高度・起伏を示す地形図(または地勢図)があり,地図上の高度・起伏は一般には等高線と高さの数値で示される。いいかえれば地形図の地形は高さの分布で示されていることになる。しかし高さは各点のデータであり,地形は点ではなくその集合のつくる面から成り,さらに立体として扱う概念である。
起伏reliefは地表の凹凸のようすをいい,隣接する地点の高さの差異で示される。ただし一様に傾く斜面上の2点間であれば,高さの差は傾斜を示す数値となり,これを2点間の距離で割れば正接tangentとなり,これから傾斜角度のみが算出される。しかし起伏の概念は単に傾斜だけではない。相隣る高みとくぼみとの間の高さの差であり,あるいは山稜線とそれに隣る主要な谷との高さの差で示される。地表の粗度つまり各部分のひだの細かさは場所によって異なるので,相隣る凸所と凹所の間の距離もさまざまに変化する。そこで例えば主要な山稜と隣接する主要な谷との間の距離を1辺とする方眼を,その地域にあてはめる単位面積と考えて,方眼ごとに高度差を求める。これを起伏量local relief,relief energy,available reliefと呼び,その分布図は起伏量図といわれる。
すなわち起伏量とは単位面積内の最高点と最低点の高度差であり,単位面積は地表の凹凸の規模に従ってさまざまに設定される。例えば緩やかに一様に傾く火山裾野の斜面は,傾斜はあっても起伏量は0に近いが,その斜面に数mの比高の小火砕丘や小凹地が散在していれば,短い距離の囲む単位面積の中ではこの数mの比高が起伏量となる。この場合の起伏は地形を巨視的に扱うときには無視してよいが,その上での道路建設,耕作,生活などを考えるときには,無視できない重要な因子となる。
起伏量は山地,丘陵地,台地,低地を区分する基準の一つでもある。トレワーサによれば,丘陵地は起伏量150~600mの地域とするが,日本の地形に当てはめる場合は起伏量50~100mが丘陵地にほぼ相当する。したがって日本では台地は起伏量10~40m,低地は数m,山地は100m以上と考えてよい。山地で起伏量1000m以上を大起伏山地,300m以上を中起伏山地,100~300mくらいを小起伏山地などと分けるが,この区分基準は対象地域と目的によって変化させて差支えない。
海,山,川,崖など地形の経験的認識は人類の生活の歴史とともに古いが,系統的認識は18世紀末のイギリスの地質学者による〈斉一説〉に端を発している。すなわち,J.ハットンが唱道し,C.ライエルによって広められた同説によると,〈現在地表に見られる地学的諸現象と同じような過程で,地球創生以来地形がつくられ続けてきた〉のである。この場合の地形は〈変化する〉対象であり,一見不動に見える地形は,地学的時間尺度を適用することによって変転を繰り返すものとしてとらえられる。当時は中世以来〈天変地異説〉が支配的であり,これによると地表の起伏は激しい地殻変動によって裂けたり盛り上がったりして急速に生じたとされていた。地球の年齢を数千年程度と考えていたせいでもあるが,結局は斉一説によりこの考えは打ち砕かれた。斉一説の〈現在は過去への鍵である〉とする説明のように,現在の地形は地質時代を通じて続けられてきた地形変化の最後の結果なのである。
地形を変化させる作用には地球内部から働く〈内作用〉と外部から働く〈外作用〉とがあり,地形形成作用(地形営力)と呼ばれる。とくに外作用は風,水など太陽エネルギーの変形による諸現象が地形に作用し,浸食・運搬・堆積を繰り返し,河成地形,氷成地形など営力の種類ごとにそれぞれ特徴のある地形を残す。また内作用は地層を褶曲させたり,断裂させたり,火山を噴出させたりして,その結果地表に特徴のある起伏や模様の基になる構造(組織)をつくる。前者を一括して浸食地形,後者を一括して構造地形(組織地形)という。
地形の説明的記載に成因論的方法を導入し近代的な地形学を確立したのは,アメリカの地形学者W.M.デービスである。彼によれば地形を支配する主要な因子として組織,営力,時期の三つを考え,とくにこれを地形因子と名付けた。〈組織〉は原地形と地質構造とであり,具体的には最初の高さや起伏,大きさや形態に加えてそれを造っている岩石の種類,浸食への抵抗性や岩石の配置などが含まれる。〈営力〉はこの場合は浸食作用のことで,その種類によって,それぞれ特徴のある地形が現出する。〈時期〉とは時間の経過とともに地形は後述するように幼年期,壮年期,老年期として名付けられるような特徴のある地形を連続的に発達させる。この〈時期〉の概念が地形輪廻説におけるデービスの考え方の根幹であった。
デービスの成因論的地形学に対して,ドイツの地形学者W.ペンクは,地形は地盤運動(内作用)に対して外作用が加わって生ずるから,外作用による変化を取り除いて考えれば地形から地盤運動の性質がもとめられるはずであるとする地形分析の立場を唱えた。これら二つの学問的方法論は,それぞれの立脚点を異にするが,地形研究発展の過程で相互補完的に用いられてきた。
環境論的地形学ともいうべき分野の地形の認識が,最近では目だってきているように思われる。気候帯ごとに営力の強さや性質の異なる点に注目して発展している気候地形学や,古環境の復原など地域の地形変化をとらえる地形発展史の分野が,大きくはこれに含まれるであろう。また地形分類は地形の等質性に基づいて土地を区分し,これを基に地形区を組み立て,地域の地形構成を分析的・系統的に示す手段であり,他の自然環境要素である地質,土壌,植生との関係が密接であるので,やはり環境論的地形学に含まれよう。
地表の多種多様で雑多な地形を系統的に考えるため,デービスにより1889年に提唱された仮説である。海面変化によって陸化した旧海底や地盤運動によって高い位置に隆起させられた地塊や,新たに噴出した火山など外作用のまだ加えられていない地形を原地形と呼ぶ。原地形に外作用が加わって次々と変化していく地形を一括して次地形とし,浸食の結果最後に生ずる準平原が終地形である。準平原は浸食基準面である海面に近い高さの小起伏の浸食平野であり,古い硬い岩石から構成される。これが隆起させられれば高みにいたり,浸食作用は再び興って浸食基準面に向かって全体の地形を平らにするような前回と同じ浸食による地形変化の経過が繰り返される。このゆえにこのような地形変化過程を地形輪廻geomorphic cycleまたは,浸食作用により変化する地形をおもな対象としたため浸食輪廻cycle of erosionと呼び,地表の各部分は地球創生以来それぞれ何回も地形輪廻を経過してきたと考えられている。
次地形は人の一生にたとえ,幼年期,壮年期,老年期に分け,その中を必要によって早,晩,満を付して細分する。例えば隆起準平原が浸食により開析されて,谷間に残る準平原面が谷壁斜面より面積的に大きい場合を幼年期として,谷間の準平原面がより小面積になってからを早壮年期とする。満壮年期は山稜上の準平原遺物がまさに消去されようとする時期で,谷は最も深く起伏が最大になる。これを過ぎると山稜の開析が進み高度が不揃いとなり山体は瘦せ,起伏はしだいに減ずる時期すなわち晩壮年期となる。老年期は谷幅は大きく開き,山稜は丸みを帯び風化で生じた砕屑物の運搬が遅れて,全体がゆるやかな起伏地となる。
地形輪廻は上述のような河川による地形の開析が標準的であり,これを正規輪廻とも呼ぶが,この考え方を営力の種類に応じ部分的に適用して,氷食輪廻,海食輪廻,カルスト輪廻,乾燥輪廻などが考えられている。氷食輪廻は雪線を浸食基準面とする山地氷河の浸食による地形変化の系列をいい,海食輪廻は海岸線付近の地形が波浪基準面にまで波食によって変形させられ,陸地が蚕食される変化の系列をいう。カルスト輪廻は石灰岩地域における独特な溶食作用による地形変化の系列で,浸食基準面はその地域の地下水面である。乾燥輪廻は乾燥地域の盆地床を浸食基準面として進む地形変化の系列で,機械的風化が著しく布状洗食や風食が卓越的で,急斜面が平行的に後退し,ペディメントが形成され,島状丘陵(インゼルベルク)が残丘として残る特色がある。
デービスは地形輪廻を提唱したおり,将来はこの考え方を広く地理学の諸現象に及ぼす意を含めて地理学的輪廻と呼んだ。輪廻は時間とともに変化する地形の順序だった系列であり,地形因子の中では〈時期〉としてとらえられている。実際の地形では輪廻の途中で変化が起こる場合もあり,その変化を考慮しないわけにはいかない。輪廻の途中で海面低下など浸食基準面の位置が変化した場合は,それまでの輪廻の進行が止まるので〈輪廻の中絶〉といい,次いで新しい基準面による別の輪廻にはいると考える。基準面には関係なく輪廻の進行に変化が起きる場合は〈事変〉という。例えば気候変化により流域に氷河が着生したり,火山が爆発したりして多量の火山砂礫が供給されるような場合は,それぞれを〈気候事変〉〈火山事変〉という。実際に見られる地形の広がりの中には単輪廻の例は珍しく,何回も輪廻の中絶や事変を経過してきた多輪廻の例が多い。
輪廻に要する絶対時間はほとんど明らかにできない。幼年期,壮年期も時間の経過については相対的概念であって,二つの地域が同じ壮年期にある場合でも,それまでに経過した絶対時間は同じとは限らない。組織,外作用の条件が二つの地域について同一といえるときだけ経過時間が同じと考えてよい。高い山地が生じ準平原にまでならされる絶対時間は少なくとも5000万年を要するだろうと推測されている。
アメリカの東海岸寄りにアパラチア山脈がある。北東~南西方向に長く延びる山稜とこれに平行する谷が幾重にも連なって低山~中山程度の起伏地となっているが,古生代の水成岩層が古生代末のアパラチア造山運動によって褶曲して生じた山地であり,その褶曲構造が結局は山稜や谷の配列の形を支配している。ただし褶曲運動によってそのまま背斜が山稜となり,向斜が谷筋となっているわけではなく,褶曲構造が先にあり,地形輪廻が何回も繰り返された結果,現在の地形配置となった。各輪廻末に形成されたフォールゾーン,スクーリー,ハリスブルグと名付けられた各準平原面が山地内各所にその痕跡を残している。褶曲構造に従った硬い砂岩層や軟らかいケツ岩層の互層の状態が岩石の分布を支配し,次いで地域全体の隆起とそれに伴う削剝の結果,浸食に対する抵抗性の大きい岩層が山稜となり,抵抗性の小さい岩層が谷となるため,結局は褶曲構造の模様に支配された地形が現出している。このように褶曲構造が浸食地形として現れたこの種の地形をアパラチア(式)地形Appalachian relief(topography)と呼んでいる。
一般に地質構造が先にあって地形はそれより新しく生じたものといって差支えない。地形は地質構造に支配されることはあっても,地質構造を支配することはないとするのが一般的である。一方,アフリカ東部からヨルダンにかけての大地溝帯や日本のフォッサマグナや中央構造線に沿う断層崖のような構造地形の明らかな例を指摘できる。また有珠火山など新生の火山体の中には短時間にかなりの高さの山体をつくる例がある。これらは造山運動に伴う急性的な地形形成の例であり,世界の陸地の広い部分において一般的に見られる現象ではなく,むしろ新期造山帯と呼ぶ狭長な部分に限定されて生起している。断層運動や火山活動などは地形形成そのものが地質構造に直接影響を及ぼしていることになる。日本列島は新期造山帯に位置するので,構造地形に関心が向きやすいが,こうした場所でも地質構造が地形に先立ってあるとする一般論は,地形の解釈にあたってまず考慮される必要がある。
地形が地質・岩石につねに支配されるかというとそうではない。地形学が地学の中で一大分科をなしているのは,地質・岩石を超越して地形独自の一般性が認められるからである。例えば氷河による浸食地形の典型として圏谷(カール)地形がある。圏谷は山地氷河が谷頭部集水域で,氷体独自の回転運動,氷体の及ぼす底部への重圧と氷体周縁の霜の浸食作用が合作することにより形成される半環状の岩壁をめぐらした特徴的な地形である。この圏谷の特色は氷河の着生した場所の地質・岩石には関係がない。花コウ岩の山であれ,古生層の山であれ,石灰岩の山であれ,氷河という営力の共通性から,同じ圏谷地形が結果するのである。つまり外作用の種類によって,それに応じた独自の地形がつくられるということができる。ただし圏谷地形の細部の特色は岩石の性質によって支配されることがある。例えば花コウ岩は鉱物結晶の粒状構造に特徴がある岩体で,風化によって分解し砂粒に変化しやすい。そのため岩稜が丸味を帯び,日本アルプスの野口五郎岳の圏谷や三俣蓮華岳の圏谷のように比較的穏やかな圏谷地形となる。圏谷地形でなくとも岩石の種類が地形の細部を特色づけることは一般的に他の地形にも認められる。例えば花コウ岩の山体は塊状で,山頂や山稜の幅が広く,小起伏面が保存されやすく,岩体内部の節理に支配された谷が発達しやすい。丹沢山地(神奈川県),脊振山地(佐賀・福岡県)など花コウ岩質岩石の山地にはこの性質はほぼ共通している。
岩石が地形と関連する極端な例は石灰岩である。石灰岩は物理的には硬く,一般的な風化を受けにくい。そのため河川の下刻作用の著しい場所では一般の岩石の場合のように風化によって谷壁がV字型に開かず,両岸の垂直な谷壁が維持されたまま鋭い形の峡谷となる。帝釈峡(広島県),太魯閣(たろこ)峡谷(台湾)などがその例である。また平尾台(福岡県)や秋吉台(山口県)は石灰岩台地と呼ばれ,山地内部に台地の形で見られる例である。隆起準平原面遺物のうち石灰岩の部分だけが硬岩のため周囲を急崖で囲まれた広い小起伏面の形で残されるわけである。さらに石灰岩は炭酸ガスを含む水に溶けるため地表流が発達しにくいのも台地面を保存しやすくする原因である。溶食の結果生じたドリーネ,ウバーレなどのくぼ地や地下水の溶食による地下の鍾乳洞の発達などは,石灰岩に伴う特有の溶食地形であり,カルスト地形といわれる。日本では石灰岩の分布は断片的であるが,欧米,中国などでは石灰岩分布の規模が大きく,著名なカルスト地形の例が多い。
前述したように営力と地形との間には密接な対応関係があり,岩石と地形との間にもある程度まで対応関係がある。地すべりや崩壊は,斜面上の土塊や岩石が下方に移動する現象の一つであり,その結果地表に亀裂が生じ,地形は極端に変化させられる。これにより既存の土地利用や工作物が破壊され,土地保全上の由々しい問題をひき起こす。地すべりや崩壊も谷間地域における地形営力の一つで,総括してマス・ウェースティングmass wasting(重力浸食)と呼ばれ,結果として特色ある地形が生ずる。なかでも,地すべりは特定の地質に限られて起こりやすい。
例えば新第三紀層ケツ岩は不透水性で,水を含むと滑りやすくなり,その風化粘土層は滑り面となってその上の土塊が移動を始める。地すべり地形の斜面は全体がなだらかで頂部に半環状の小崖を生じ,中腹以下は複雑な小起伏地となり,ひだ状の凹地がいくつもできて池沼が散在する。こうした地形は山形,新潟,長野など各県の新第三紀層山地にしばしば見られ,これら山地では,地すべりが斜面形成の主要な営力である。その他の地すべりを起こしやすい地質には,結晶片岩,断層破砕帯,温泉余土があり,いずれも風化して滑剤の粘土層を生じやすい。これらの地質の分布地帯に,地すべり起源の地形的特色が加わった場合には,地すべりに関連して土地の成立ちや性状が明確になる。
砂丘は風によって砂粒が吹き上げられて生ずる風成地形である。海浜,川原,氷河堆積物などの中の砂が風の選別をうけ,二次的に堆積する。供給される砂量の多い場合は,平面形が三日月形のバルハン砂丘や,これが連接して卓越風向に直交する長軸をもつ横砂丘をつくる。また砂量の少ない場合はヘアピン形砂丘から,卓越風向に平行の長軸をもつ縦砂丘となる。このような砂丘の地形的特色から,その地域の卓越風向や砂の供給源,砂の分布傾向など,土地の性状に関して有力な手がかりが得られる。地すべりや砂丘は多数の地形種の中のほんの2例にすぎないが,一般にこうした微地形は種類ごとに土地の性状と密接にかかわっており,土地の性質を確実に理解するには地形の検討をベースにする必要がある。
地球創生以来,同じ地域について何度も地形輪廻が繰り返されてきたとみられるが,まれに先カンブリア時代の準平原というような記載を見ることがある。カナダ北部,ハドソン湾周縁の先カンブリア時代の火成岩,変成岩を切る浸食面がその種の例であるが,これは最近になって,被覆層である古生層水成岩が削剝されて,かつて先カンブリア時代に形成された準平原面が再び露出するようになったと解釈される。地質時代の過去に形成された地形が,例えば海進を受けて,より新期の地層の下に埋没されてきたが,その後の海退によって削剝をうけ上位の地層が除去されて埋没地形面が地表に露出する例であり,〈再現地形〉という。極端に古い地形面は再現地形にしか見られず,現在の地表の90%は第四紀以降,つまり200万年前以後に生じた地形と考えられている。大陸に見られる起伏には第三紀に起源をもつものがあるが,その例は限られており,面積的にもきわめて小さい。
例えばアフリカの中央高原には平たんな大陸台地面が分布するが,これは先カンブリア時代の地層を切って第三紀中葉に形成された準平原面であり,これを刻む谷は第三紀末に形成が始まったとされる。アメリカ西部のコロラド峡谷の起源に関しては研究者によりまちまちで,第三紀から第四紀初めまでの各時期に分かれているが,第三紀中葉以降とするのが定説のようである。
ヒマラヤ山脈の褶曲は中生代白亜紀に始まり,第三紀にも褶曲したが第三紀末には現在のような高度には達しておらず,第四紀に入ってから高度が増し高山地形としての細部の彫刻が進んだ。日本列島の諸山脈もヒマラヤ造山の時期とほぼ並行しており,現在の山稜や山腹に隆起する以前の準平原面や老年地形の一部が,小緩斜面,小起伏面として分散して残る。これらの中には第三紀に形成された地形面と考えてよいものもあるが,細かい時代を特定することはできない。火山地形が明瞭な新期火山体の多くは洪積世末から沖積世にかけ,すなわち数万年以来現在までの間に形成され,古くても20万~30万年をさかのぼらない。群馬県武尊(ほたか)山や妙義山など開析の進んだ火山もほとんどが第四紀に起源を発し,一部は第三紀末の火山活動によるものとみられている。
日本の場合,平野を構成する地形はきわめて新しい。丘陵地の定高性の稜線は第三紀末か第四紀初期,台地面は第四紀中期以降の各時期にあたるものがあり,低地面は1万年前以後の沖積世に形成された。地形面形成のより科学的な時代決定の方法として火山灰による編年や炭素14による年代測定法などがある。地形の細部はほとんどが第四紀以降に形成されたものであり,一方,第四紀は人類の出現の時期であるため,考古学的,先史・歴史学的研究に地形学的アプローチが必要となってきているし,第四紀の学際的研究に地形学は重要な位置を占めるようになった。
執筆者:式 正英
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
地球の気圏や水圏とリソスフェア(岩石圏)との境界である地殻表面の起伏形態。地殻表面には高度8848メートルのエベレスト山から、水深1万0920メートルに達するチャレンジャー海淵(かいえん)まであり、その高度差は約2万メートルに及ぶ。このうち海水面上に出ている地形を陸上地形、海水面下にある地形を海底地形という。
地形の生成には、一括して組織とよばれる岩石の性質や地質構造のほか、地形プロセスとよばれる地殻表面に作用する営力や重力による地形の発達過程、また地域的にも時代的にも変化する地形プロセスが関与する時間、あるいは地形の発達段階を示す階梯(かいてい)などが関係し、これらが地形を支配する地形因子とされている。この地形営力のうち、地表面に凹凸を生ずる地盤運動や火山活動のように、地球の内部に力の根源をもつものは、内力とよばれ、岩屑(がんせつ)などを運搬する流水、地下水、波浪、潮流、風、氷河などのように太陽エネルギーを根源とする動的営力は外力または侵食営力とよばれる。重力は地殻表面物質を下方へ移動させる指向力にすぎないので、営力とは区別される。地すべり、岩屑雪崩(なだれ)、土壌匍行(ほこう)などのように、重力による下方への集団的物質移動をマスムーブメントmass movementという。
地形の幾何学的特徴を示す高度、起伏、勾配(こうばい)、斜面、規模、配置などを地形要素とよぶ。地形の研究は、地形を地形要素の集合としてとらえ、それを地形因子の関数とみて発生論的に分析し、地形の成因、形成機構、発達過程などを考察する。
地形学では地形要素に基づく自然発生的な山地、高原、丘陵、台地、平野などの経験的分類による日常用語よりも、地形因子に基づく断層山地、火山地、老年山地、第三紀丘陵、侵食台地、洪積台地、沖積平野などの成因的分類による地形用語が使用される。
[壽圓晋吾]
地殻運動や火山活動などの内作用によって形成された地形を大地形または構造地形という。火山地形、褶曲(しゅうきょく)地形、断層地形などがこれにあたる。しかし構造地形の語は、岩石の削剥(さくはく)や侵食に対する抵抗性の違いに由来して形成された、地質構造を反映する侵食地形を含むので、これを区別するために、地殻運動によって一次的につくられた地形を変動地形とよび、地質構造を反映する侵食地形を組織地形とよんでいる。断層運動による断層崖(がい)、山の尾根や谷の横ずれ、地塁、地溝などや、褶曲運動による背斜山稜(はいしゃさんりょう)や向斜谷、曲動による曲隆山地(地殻が穏やかに上方にたわむ曲隆運動によりできた山地)や曲隆盆地などは変動地形の例である。ケスタ、ホッグバック(45度以上の急傾斜の硬軟互層からなる単斜構造の地域に発達した、横断面形にみる両斜面の傾斜がほぼ等しい同斜山稜)、組織段丘、メサ、ビュート、背斜谷、向斜山稜、同斜山稜などは、組織地形の例である。
風化、マスムーブメント、侵食、堆積(たいせき)などの作用を外作用といい、外作用で形成された地形を小地形または侵食地形という。この場合の侵食地形には堆積による地形もこれに含まれる。侵食地形のなかで、とくに河川の作用によって生ずる地形を河食地形または河谷地形とよぶ。波の作用によって生ずる地形を波食地形または海岸地形という。氷河の作用により生ずる地形を氷河地形、風の作用の卓越する乾燥地域に発達する地形を乾燥地形または風食地形とよぶ。また、地下水の溶食が卓越する石灰岩地域に発達する地形をカルスト地形または溶食地形という。地すべり、崖(がけ)崩れ、岩屑雪崩、土石流、土壌匍行などはマスムーブメントによる代表的な地形である。
単一の優勢な地形プロセスのつくった地形を単純地形、二つまたはそれ以上の地形プロセスが発達に重要な役割を果たしている地形を複合地形という。ただ1回の侵食輪廻(りんね)(地形輪廻)の間に形成された地形を単輪廻地形、2回またはそれ以上の侵食輪廻の間に形成された地形を多輪廻地形という。過去の地質時代に形成され、その後なんらかの被覆物の下に埋まり、さらに最近の地質時代に被覆物を除去されて露出した地形を復活地形あるいは発掘地形という。過去(前輪廻)の地形の遺物を遺物地形といい、とくに現在とは異なる気候条件のもとで、現在はもはや働いていない地形営力によって発達した地形の遺物をさすことが多い。堆積物の下に埋もれていた地形を化石地形という。これには、埋没地形をさす場合と、それが侵食によって掘り出され、埋もれる前とほぼ同じ地形が地表に現れたもの、すなわち発掘地形をさす場合とがある。
地形の規模からみて、全体としての固体地球の形、大陸の形、海洋盆の形などを第一オーダー(序列)の地形、平原、高原(台地)、山脈、海溝などを第二オーダーの地形、谷、尾根、岸、峰、流域、扇状地などを第三オーダーの地形ということもある。また5万分の1や2万5000分の1の地形図では、明確に表現されない微高地や微低地を微地形とよぶ。
[壽圓晋吾]
『吉川虎雄著『新編日本地形論』(1973・東京大学出版会)』▽『村山磐著『火山の活動と地形 東北の火山を中心として』(1973・大明堂)』▽『高山茂美著『河川地形』(1974・共立出版)』▽『金子史朗著『地形をさぐる』(1976・古今書院)』▽『ヘルベルト・ウィルヘルミー著、谷岡武雄・北野善憲訳『地形学』全2巻(1978、1979・地人書房)』▽『J・ビューデル著、平川一臣訳『気候地形学』(1985・古今書院)』▽『熊木洋太ほか編著『技術者のための地形学入門』(1995・山海堂)』▽『リチャード・J・チョーレー著、大内俊二訳『現代地形学』(1995・古今書院)』▽『ニール・モリス著、江川多喜雄訳『世界の地理トップ10 いろいろな地形・さまざまなくらし』全8冊(1999・鈴木出版)』▽『太田陽子著『変動地形を探る』全2冊(1999・古今書院)』▽『東郷正美著『微小地形による活断層判読』(2000・古今書院)』▽『米倉伸之・貝塚爽平・野上道雄・鎮西清高編『日本の地形1 総説』(2001・東京大学出版会)』▽『植村善博著『比較変動地形論――プレート境界域の地形と第四紀地殻変動』(2001・古今書院)』▽『全国地質調査業協会連合会編『日本の地形・地質――安全な国土のマネジメントのために』(2001・鹿島出版会)』▽『池田宏著『地形を見る目』(2001・古今書院)』▽『小泉武栄・青木賢人編『日本の地形レッドデータブック第2集 保存すべき地形』(2002・古今書院)』▽『貝塚爽平著『日本の地形 特質と由来』(岩波新書)』
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報
出典 不動産売買サイト【住友不動産販売】不動産用語辞典について 情報
出典 平凡社「普及版 字通」普及版 字通について 情報
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