改訂新版 世界大百科事典 「ファブリキウス囊」の意味・わかりやすい解説
ファブリキウス囊 (ファブリキウスのう)
bursa Fabricii[ラテン]
幼若期の鳥類において,総排出腔のすぐ内側の背側にみられる囊状構造のリンパ組織。イタリアの解剖学者ファブリキウスが1621年に記載(死後公刊)したので,この名がある。ファブリキウス囊は鳥類だけにみられ,鳥類の抗体産生能の発達に不可欠な役割を果たしている。ニワトリのファブリキウス囊は,孵卵4日目ころから分化しはじめ,孵化時には組織分化をほとんど完了している。その後,囊の大きさは孵化後2~3ヵ月で最大に達した後,性的成熟にともなって萎縮退化し,消滅する。その成長の最大時には,直径約3cm,重量約3gあり,外形は西洋ナシ状をしている。ファブリキウス囊は,腸管内腔から連続した囊内腔をもった囊であり,囊の内部には,多くのひだがみられる。これらのひだの内部には多数のリンパ球が存在している。
ファブリキウス囊の存在は古くから知られていたが,その機能については長く不明であった。1956年にグリックB.Glickが,ニワトリでこの囊の摘出実験を行い,抗体産生能に関係していることを発見した。すなわち,孵化時にファブリキウス囊を摘出すると,成鳥になっても抗体産生ができないことが見いだされた。これ以降,その免疫学的重要性が注目されるようになった。
鳥類では,胸腺とファブリキウス囊が中枢性リンパ組織(一次リンパ系組織)となっており,ファブリキウス囊は,それ自身は抗体産生を行わないが,抗体産生を行うリンパ球(Bリンパ球)の分化に関係しており,このリンパ球が抗体産生能をもつためには,一定期間ファブリキウス囊に滞留することが必要不可欠となっている。鳥類以外の動物で,ファブリキウス囊の役割をどの器官あるいは組織に求めるかは確定されていないが,哺乳類では骨髄,あるいは虫垂,パイエル板などの腸管付随リンパ組織が注目されている。
執筆者:川口 啓明
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報