改訂新版 世界大百科事典 「マク氏」の意味・わかりやすい解説
マク氏 (マクし)
Mac
16世紀,ベトナムのレ(黎)朝を奪し,ベトナムの大分裂期(1527-1786)をもたらした一族。マク(莫(ばく))氏の祖は中国人といわれ,代々漁を業としていたが,マク・ダン・ズンMac Dang Dung(莫登庸(ばくとうよう))の時,武官としてレ朝に仕え,宮廷の混乱を利して実力を得,1527年レ帝に強請して帝位を奪った。しかし各地の軍閥はこれを認めず,全土が内乱状況になった。中でもレ・チャントン(黎荘宗)を擁するグエン・キム(阮淦)は,ラオスからゲアン,タインホアに拠って,マク氏に対抗した。しかし明は41年ズンを安南都統使とし,正式な主権者とした。92年グエン・キムを継いだチン・スン(鄭松)がハノイを攻略しレ朝が再建されたが,マク一族は北方山地に拠って,以後80年にわたりハノイのレ=チン政権に対抗した。ベトナムの分裂を喜ぶ清はマク氏に帰化将軍・安南都統使を授けて,安南国王であるレ帝に対立させたが,1669年に両者の戦争を調停し,北部のカオバンをマク氏に与えた。しかし三藩の乱によって華南における清の勢力が後退するや,77年レ=チン軍はカオバンを収復し,マク氏の勢力はついえた。マク氏の登場はベトナムの中央集権制の崩壊,武人勢力の勃興を決定的なものにした。
執筆者:桜井 由躬雄
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報