改訂新版 世界大百科事典 「タインホア」の意味・わかりやすい解説
タインホア
Thanh Hoa
ベトナム北部の都市。人口10万7900(2004)。トンキンのソンコイ・デルタの南にあるタインホア・デルタの中心をなし,ハノイの南150kmに位置する。このデルタはマ川とチュー川の合流により形成され,トンキン・デルタに比し面積は小さいが(約1万5000km2),古くから堤防を築いて洪水を防ぎ,肥沃な土壌を利用してよく開かれ,人口稠密であった。ベトナム史の上でも重要で,15世紀にはレ(黎)朝,16世紀にはクアンナム(広南)朝のそれぞれ発祥の地となった。そしてベトナム民族王朝の南進の拠点となった所である。このようなことからフランスの地理学者によって〈アンナンのイル・ド・フランス〉ともよばれた地方であった。近代にはフランスにより灌漑網が整備され,耕地の1/3までが米の二期作地帯(ことにデルタ南半のチュー川流域)となった。さらに綿花栽培や養蚕も盛んであった。現在のタインホアはこうした肥沃なデルタを背景に付近の農産物の集散が盛んで,交通の要地ともなっている。また,ここは伝統的に陶磁器生産の行われた所で,なかでもリ(李)朝時代(11~13世紀)に宋の影響を受けたと思われる白磁のタインホア焼が名高い。大きな水がめの生産でも知られる。農機具や化学肥料工場も興ってきた。付近は史跡に富み,考古学博物館がある。周辺の鉄鉱は第2次大戦後,中国の援助をうけて開発が始められ,良質のクロム鉱の埋蔵も知られている。
執筆者:別技 篤彦
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報