日本大百科全書(ニッポニカ) 「バク」の意味・わかりやすい解説
バク
ばく / 獏
tapir
哺乳(ほにゅう)綱奇蹄(きてい)目バク科バク属に含まれる動物の総称。この属Tapirusの仲間は、中央・南アメリカに3種、東南アジアに1種が分布する。いずれも、生息環境の減少と、肉や皮を目的とした狩猟が原因で絶滅のおそれがある。
ウマやサイに近縁の動物であるが、体は小さい。体長1.8~2.5メートル、体高0.75~1.2メートル。皮膚は厚く堅いが、全身が毛に覆われている。成獣の体色は褐色から黒色で、大きな白色部があるマレーバク以外は模様がない。しかし、いずれの種も、耳の先端は白色に縁どられている。四肢は比較的短く、前肢には4本、後肢には3本の指があり、先端はひづめで覆われている。最大の特徴は鼻で、上唇と合体してゾウほどではないが長くなっている。歯は、臼歯(きゅうし)が発達しているが、上顎(じょうがく)の第3門歯は犬歯のように長くとがっている。歯式は
で合計42~44本である。
単独または親子で、森林や水辺のやぶ地にすむ。くさび形の体つきのため、深いやぶをかき分けて進むのも得意である。朝と夕方の薄暗いときに活動する。主食は木の葉、果実、草、水草などであるが、サトウキビなど人間の耕作物も食べるので嫌われている。ジャガー、トラ、ヒョウなどの天敵に追われたときなどは水中に逃げる。泳ぎはうまい。休息は水中でも地上でも行う。排糞(はいふん)は水中か水たまりでする。3~4歳で性成熟する。妊娠期間は390~400日で、普通は一度に1頭の子を産む。子はすぐに起立し歩くことができる。乳頭は1対で後肢の間にあるため、雌親は体を横にして授乳する。バクの子はどの種も、出生時には黒褐色の地に白色の斑点(はんてん)と縞(しま)模様があり、保護色となっている。この白斑は6か月齢までには消失する。
(1)アメリカバクT. terrestris ブラジルを中心とした南アメリカの低地に分布し、もっとも生息数の多い種である。体長2メートル、体重170~200キログラムぐらいで、バクとしては中形である。
(2)ヤマバクT. pinchaque アンデス山脈の海抜2000~4000メートルの高地に分布し、長毛に覆われ、低温の地域でも生活できるようになっている。体長1.8メートル、体重130~140キログラムと小形。口の周囲が白色となっているのが特徴。
(3)ベアードバクT. bairdii 中央アメリカに分布。体長2メートル、体重300キログラム以上になる。メキシコ、グアテマラ、ベリーズの密林が中心の分布地となっている。
(4)マレーバクT. indicus カンボジア、ミャンマー、タイ、マレー半島と近くの島、スマトラ島に分布する。体長2.5メートル、体重340キログラム(500キログラム以上との記載もある)にもなる最大の種であるが、生息数は4種のなかで最少となっている。
バクは、中国の想像上の動物である獏(ばく)から名だけを受けている。したがって、「獏が悪夢を食べる」という言い伝えと、実在するバクとの関連はない。
[祖谷勝紀]
『今泉吉典監修『世界の動物 分類と飼育4 奇蹄目・管歯目・ハイラックス目・海牛目』(1984・東京動物園協会)』