マルチビームアンテナ(読み)まるちびーむあんてな

日本大百科全書(ニッポニカ) 「マルチビームアンテナ」の意味・わかりやすい解説

マルチビームアンテナ
まるちびーむあんてな

一つのアンテナから複数のビームを放射するアンテナ。通常ビームの数に等しいアンテナ給電端子があり、それぞれに独立の送信機または受信機が接続される。マルチビームアンテナの構成法としては、複数の1次放射器が一つの反射鏡を共有する反射鏡形式のものと、アレーアンテナ形式のものがある。2000年代に入り無線LANの高速化が進展したが、そのためのMIMO方式(Multiple Input Multiple Outputの頭文字をとった名称)に適用されるアンテナもマルチビームアンテナの一種である。

 通常反射鏡アンテナでは、1次放射器を放物面反射鏡の焦点位置に置くが、1次放射器を放物面の軸に垂直な面内で焦点からずらして配置すると、ずれ量に応じてビームは放物面の中心軸から角度θだけずれた方向に出る。ただし1次放射器の焦点からのずれ量が大きくなると、レンズ系において非軸光線の場合収差により像がぼけるのと同じように、ビーム幅が広がり特性が劣化する。マルチビームアンテナは、アンテナ構成要素のうち、重量体積とも、もっともかさばる反射鏡部分を共通化しており、本来各ビームごとに必要となる反射鏡部分を1個に集約したという特徴を有するものである。体積や重量が制限される衛星搭載アンテナとしての実用例が多く、インテルサット系(Ⅳ号以降)衛星などの国際通信衛星や、カナダのアニーク衛星でも使用されている。大きな反射鏡を必要とする地球局アンテナとしての実施例や複数の放送衛星の電波を1個のアンテナで受ける家庭設置用の実用例もある。一方、アレー形式のマルチビームアンテナは、放射素子列と送受信機の間にバトラーマトリックスなどのビーム形成回路を接続することにより、接続するビーム形成回路端子に応じて異なる方向にビームを出すことができる。このとき放射素子は各ビームに対し共通に使用される。MIMO方式におけるマルチビームアンテナでは、通常はアンテナ素子に直接送信機、受信機が接続される。しかし携帯端末のようにアンテナ設置空間の制限により素子間隔が狭くなると素子間結合が大きくなり、MIMO方式本来の性能が得られなくなる。このためアンテナ端子と送信機、受信機の間に、アレー形式のビーム形成回路に相当する給電回路が挿入されることが多い。

[鹿子嶋憲一]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

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