翻訳|aberration
光学系の結像において,与えられた明るさと画角の下では,1点から出てレンズに入射する多くの光線は,レンズを出た後は再び1点に収束せず,ある広がりをもって像面上に散らばる。また,このほかにも像面が曲がったり,像の形がゆがんだりする。これらの現象を総称して収差という。光学材料の屈折率が光の波長によって異なる(分散)ために像の色がにじんだり,色のふちどりが生ずる現象が生ずるが,これは色収差と呼ばれる。
ドイツのザイデルLudwig Philipp von Seidel(1821-96)は,単色光に対して,共軸球面系(各屈折面の曲率中心が一直線上に並んだ光学系)の光軸のまわりの対称性から収差を5種類に分類した。すなわち球面収差,コマ収差,像面湾曲,非点収差,および歪曲であり,これらをザイデルの5収差という(この五つを広義の球面収差と呼ぶ場合もある)。彼はスネルの法則を入射角xに関する三次までの近似式,sin x=x-x3/6で展開して,各収差の特徴を論じた。したがって,実際のレンズに対して,光線追跡(物点から像点にいたる光線の追跡を,各面に入射するごとにスネルの法則を繰り返し厳密に適用して求める方法)の結果得られる収差とは,明るい(F数の小さい)レンズや画角の大きいレンズについては一致しないが,ザイデルの方法は,少ない光線追跡の結果から,像の性質を定性的に検討するのに便利な分類法なので,現代でも広く用いられている。
(1)球面収差 光軸上の1点から出た光線がレンズを通過後,軸上の1点に集まらないで前後にずれる現象(図のa)。球面収差を表すには,縦軸に光線の入射高を,横軸にこのずれ量を表示した,いわゆる縦収差曲線が広く用いられ,ザイデルの近似の範囲ではこの曲線は二次曲線になる。しかし現代の明るい写真レンズでは,実際には開口の周辺で再び近軸像点のほうに戻ってくるような補正が行われている。これは絞り開放のとき点像のまとまりがよくなる補正であるばかりでなく,絞り込んだときの焦点移動を少なくする効果をもっている。球面収差は軸上に存在する唯一の収差であるだけでなく,その近傍の軸外像もほぼ同じ大きさの球面収差をもち,さらに軸外に特徴的な別の収差が重なるので,球面収差の大きいレンズは画面全体にわたってぼけの大きい像を与えるといってもよい。写真レンズでは,この収差の小さいレンズほど画面全体で高い解像力を示すのがふつうなので,球面収差を小さくすることの実用的意味は大きい。
(2)コマ収差 単にコマcomaともいう。光軸から少し離れた物点に対し,その像がすい星のような形に広がって,画面中心から放射状に尾を引く現象(図のb)。ザイデルの近似の範囲ではこの収差は画角に比例して増大する。顕微鏡の対物レンズにせよ写真レンズにせよ,ある程度の画角を確保したいレンズでは,この収差はぜひとも除去したいものであり,除去する実用的な目安としてはE.アッベによって正弦条件と呼ばれる式が提案されており,これは現代でも標価法として広く用いられている。
(3)像面湾曲と非点収差 無収差の理想レンズでは,光軸に垂直な平面が,同じく光軸に垂直な平面上に結像する。しかし実際には画角が大きくなるに従って,いちばん鮮明な像を与える位置はこの平面から離れていく。これを像面湾曲(図のc)という。非点収差は,近軸光線近似では,本来,点像になるはずのところが広がって線像になる現象で,その位置はメリジオナル面(軸外の1点と光軸を含む面)と,それと直交するサジタル面とで異なる(図のd)。像面湾曲と非点収差はともに,ザイデルの近似の範囲では画角の2乗に比例して増大するので,画面上で中心から離れるに従って,まずコマ収差が現れ,次に非点収差や像面湾曲が顕著になる。非点収差と像面湾曲が同時に補正される条件はペッツバルの条件と呼ばれている。
(4)歪曲 以上にあげた四つの収差はいずれも像の鮮鋭さを損なうものであるが,歪曲は形の再現性を劣化させるものである。図のeに示すように,物体面上の正方形が,糸巻型やたる型になる。これは絞ってもまったく変わらないので写真ではとくにきらわれる。中心から測った距離が無収差の場合の±2%以下ならば,あまり目だたないといわれる。
なお,光以外の結像系,例えば電子顕微鏡や超音波レンズに対しても,同様の取扱いによって収差を論ずることができる。
→レンズ
執筆者:鶴田 匡夫
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
光学系が理想的な結像から外れた結像をするとき、この理想的な像からの偏差のことを収差という。1点から出た光線が1点に集まらずにぼけた像を生じたり、像面が平坦(へいたん)でなく曲がっていたり、像がゆがんだりすることを、像に収差があるという。収差のいちばん直観的な表し方は、考えている光線と理想的像面との交点の、理想的な像点からのずれで表す。これを光線収差または横収差(よこしゅうさ)という。また理想像点を中心とする球面と、現実の像点に向かって収束していく波面との偏差を光線に沿って測り、これを波面収差という。直観的で計算が比較的容易という理由で、従来前者が用いられてきた。最近、計算機の進歩により後者も利用されるようになった。いろいろな呼び名の収差があるが、実際にはそれらが同時に生じていることが多い。収差を理論的に取り扱うには、適当な変数の多項式に展開することが行われ、この展開の各項がそれぞれ固有の収差に対応している。展開の三次の項はザイデルの五収差とよばれる五つの収差に対応する。球面収差、コマ収差は、それぞれ光軸上の点および光軸の近くの点に対して現れる。これに対し非点収差、像面の曲がり、像のゆがみは、光軸から離れた点に対して顕著におこる収差である。非点収差は、像点に向かって収束していく波面が球面でなく、方向によって曲率が変化する曲面になっているために生じる収差である。この場合、点の像が点でなく、二つの互いに垂直で異なる位置にある小線分となる。この収差が人間の目に生じたものが乱視である。
以上の各収差は、使用する光が単色光のときにも生ずる収差である。それに対して光が多くの波長の光からなっていると、屈折率が波長によって違うために、像の位置および大きさが光の波長によって異なる色収差が現れる。色収差はレンズにおいてのみ生じ、反射鏡では現れない。
[三宅和夫]
出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
出典 カメラマンWebカメラマン写真用語辞典について 情報
宇宙事業会社スペースワンが開発した小型ロケット。固体燃料の3段式で、宇宙航空研究開発機構(JAXA)が開発を進めるイプシロンSよりもさらに小さい。スペースワンは契約から打ち上げまでの期間で世界最短を...
12/17 日本大百科全書(ニッポニカ)を更新
11/21 日本大百科全書(ニッポニカ)を更新
10/29 小学館の図鑑NEO[新版]動物を追加
10/22 デジタル大辞泉を更新
10/22 デジタル大辞泉プラスを更新