改訂新版 世界大百科事典 「マンクス語」の意味・わかりやすい解説
マンクス語 (マンクスご)
Manx
ゲーリック語の一つ。マン島で行われた言語で,マン島語とも呼ばれる。アイルランド語より分派したものであるが,初期の言語状態はよくわからない。マンクス語の文献は《祈禱書The Book of Common Prayer》の翻訳(1610ころ)が最初であり,以後18~19世紀に書かれた現存する写本類も,そのほとんどが宗教関係のものである。この言語では語頭における鼻音化のみならず,口蓋音の音素的機能も一部失われている。したがって形態的にもアイルランド語に比して名詞,動詞とも簡易化が著しい。アクセントは語頭にあるが,アングロ・ノルマン語の影響で第2音節の長い2音節語では例外が起こる。この点アイルランド語南部方言に似ている。語彙には英語のほか北欧語(ノルド語)からの借用語が若干含まれている。マンクス語は18世紀以来イギリスの教育制度の下でしだいにその使用人口を減じ,第2次大戦後は事実上の死語となった。しかし,この言語の要素は多くの地名,人名になおその痕跡をとどめている。
執筆者:土居 敏雄
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報