日本大百科全書(ニッポニカ) 「ムカジョフスキー」の意味・わかりやすい解説
ムカジョフスキー
むかじょふすきー
Jan Mukařovský
(1891―1975)
チェコスロバキアの美学者。南ボヘミアのピーセックに生まれ、カレル大学で言語学と美学を学ぶ。1926年に結成されたプラハ言語学派の一員として活躍。1931年からブラチスラバ大学で美学を教え始め、1937年プラハの大学に戻る。そこでチェコ前衛芸術家との交流が始まり、進歩的知識人の中心となる。1938年教授、1948年正教授となり、以降大学総長やアカデミー会員を歴任した。理論面では、文学作品の構造言語学的分析から出発し、さらに領域を美的現象一般に拡大し構造主義美学を樹立した。それによれば、芸術作品とは統一的構造をもつ自律的記号であり、美的な機能や価値が優位を占めるが、他の機能や価値とのかかわりを断つわけではなく、むしろそれを活性化することによって、人間と現実との関係の見直しと革新を迫る。このように芸術の自律性と社会的機能を同時に強調した点に、彼の理論的功績がある。
[村山康男 2018年8月21日]
『ヤン・ムカジョフスキー著、平井正他訳『チェコ構造美学論集』(1975・せりか書房)』