日本大百科全書(ニッポニカ) 「モルテンセン」の意味・わかりやすい解説
モルテンセン
もるてんせん
Dale T. Mortensen
(1939―2014)
アメリカの労働経済学者。オレゴン州エンタープライズ生まれ。1961年、ウィラメッテ大学を卒業し、1967年にカーネギー・メロン大学で経済学博士号を取得した。2000年からノースウエスタン大学教授を務める。求人があるにもかかわらず大量の失業者が存在するなど、市場がうまく機能しない「市場の摩擦」search frictionsを分析するサーチ理論search and matching theoryを発展させた功績で、2010年のノーベル経済学賞を受賞した。ダイヤモンド(マサチューセッツ工科大学教授)、ピサリデス(ロンドン・スクール・オブ・エコノミックス教授)との共同受賞。
伝統的経済学では、買い手と売り手の情報が共有されているため、取引価格は需要と供給で決まる(ワルラスの一般均衡的取引)とされてきた。しかし労働市場のように、求人している企業と求職者が個々に契約する場合、情報不足のほか、求人・求職活動にコストや時間がかかることで、求人と失業が併存している。モルテンセンはピサリデスとともに、ダイヤモンドが基礎を築いたサーチ理論を労働市場に適用し、労働のミスマッチが生じる現象を数学的に巧みに説明するのに成功した。このモデルはDMP(Diamond-Mortensen-Pissarides)モデルとよばれ、失業や賃金問題の分析手法として普及している。雇用保険の充実が失業期間の長期化につながる現象や、景気後退時でも将来の売上高増加などが期待される場合に企業は労働者を解雇しない現象(労働保蔵labor hoarding)などを解明するのに役だっている。
[矢野 武]