翻訳|supply
生産者や資産の保有者などが自発的意思に基づき販売を目的として商品を市場に出すこと,また,そうして市場に出された商品の量のこと。供給量に最も大きな影響を与える要因は,取引される財の価格であるため,縦軸に価格をとり横軸に供給量をとった図に表した供給曲線によって,売手の価格に対する反応を表現するのが普通である。個別供給者の供給曲線は,集計されて市場供給曲線となる。市場供給曲線は市場需要関数とともに,1商品の均衡価格の決定および社会的最適生産量などの問題を考えるうえで,中心的な役割を果たす概念である。
A.マーシャルは供給曲線について〈超短期〉〈短期〉および〈長期〉を区別した。超短期とは,生鮮食料品の卸売市場における取引のように,生産がすでに完了した貯蔵不能な商品について,価格に応じて販売量を調節することが不可能なほどの時間という意味で,供給曲線は垂直な形をしている。短期の供給曲線は,生産者が一定の資本設備のもとで原材料消費量,エネルギー,時間外労働等の要素投入量を変化させ,市場価格の高低に応じて供給量を増減させる関係を表すものである。一般に供給曲線の背後には,一定の生産技術のもとで利潤を最大にしようとする競争的企業行動が仮定されることが多い。市場価格を所与として行動する企業は,1単位の生産および販売量の増加から上がる収益すなわち生産物の価格と,1単位増産するための費用の増加すなわち限界費用とが等しくなるところに生産量を決定する。設備規模が固定されている短期においては,生産水準が設備の最適稼働率に近づくにつれて限界費用は逓減し,それを超えると逓増するというU字形の限界費用構造が一般的である。このうち最大利潤は限界費用が逓増的な部分において達成されるため,価格水準と最適生産量との関係は右上がり,すなわち,価格の上昇は供給量の増加をもたらすという関係に立つことになる。市場供給曲線はこのような個別供給曲線を産業内のすべての企業について合計したもので,価格の上昇にともなって生産を再開する企業も現れることから,個別供給曲線よりも価格弾力性はさらに大きくなる。また,すべての要素投入量を何倍しても生産量が同数倍になるという規模に関する収穫不変の生産技術のもとでは,限界費用は平均費用に一致して一定となり,供給曲線もこの限界費用に等しい価格の点で水平となる。さらに,設備規模の変更も可能な長期においては,個別企業の価格に応じた生産量の調整幅はさらに広がり,企業の新規参入あるいは退出も起こりうるため,供給曲線はいっそう弾力性を増して水平に近い形をとると考えられる。しかし他方,供給の増加はこの財の生産に必要な生産要素への需要の増加を意味し,それらの市場において価格上昇が起これば,個別企業の限界費用は上昇する。この効果によっては,長期供給曲線は急傾斜になるよう修正を受けることになる。
供給曲線についてはこのほかに,独占的市場支配力をもつ企業の供給曲線という概念は,形容矛盾を含んでいることに注意する必要がある。なぜなら,供給曲線は市場価格を所与として受容する供給者についてのみ成り立ち,市場価格をみずからの行動によって左右することのできる企業については成り立たないからである。また労働供給については,労働の不効用と賃金収入によって可能となる消費水準の効用との比較,あるいは余暇と消費の限界代替率と実質賃金率との比較を行う消費者行動の分析に基づいて,実質賃金に関して増加的であるが,十分高い実質賃金水準に対しては後方屈折的に減少的となる可能性があることがしばしば指摘される。なお貨幣供給量(マネー・サプライ)とは,統計的には,現金プラス要求払預金を意味するM1あるいはM1プラス預金通貨を意味するM2によって代表されるが,通貨当局が金融政策を通じて供給を調節する通貨量のことである。
執筆者:林 敏彦
〈ぐきゅう〉とも読む。和訓は〈たてまつりもの〉(《類聚名義抄》)。今日〈供給〉はひろく〈需要〉に対する語として用いられる。需要があれば物資を提供するのが供給(きようきゆう)で,その場合,食糧・石油・電力など提供される物資の種類はとくに限定されず,また提供を受ける者は一般の需要者・消費者すなわち不特定多数である。だから〈A(物資)をB(被提供者)に供給する〉場合,通常〈Bに〉を省略して,いわないことが多い。だが古くは〈供給〉の語の用法は,今日とは逆であった。提供される物資は食料・食物に限定されており,提供を受ける者も特定される。そのため普通は〈Aを〉が省略されて〈Bに供給する〉とだけいう。それはBに食料を提供するという意味である。このような意味の〈供給〉は,もとは隋・唐の律令法で用いられていた漢語であって,律令法の継受にともなって日本に移入された言葉であるが,日本では,上記の食料を提供するという一般的な用法のほかに,特定の状況のもとでの食料等の提供を〈供給〉という場合があった。その一は,公的任務を負った使者などが,国家の施設である駅を利用し,食料・馬匹・役夫などの提供を受けることを意味する〈供給〉で,平安時代の半ば以降には,荘園領主や荘官が荘園内に派遣する使者が,行くさきざきで食料・馬匹の提供を受けることをも〈供給〉といった。その二は,そうした使者が目的地に到着したのち,その土地の人たちから酒食のもてなしを受けることを意味する〈供給〉で,こうした供応は3夜連続して行われるのが例であったから,これを三日厨(みつかくりや)・落付(おちつき)三日厨ともいった。〈落付〉は到着の意味である。そしてこの場合は,酒食のもてなしのみでなく,多量の引出物が使者に進呈される。その土地の人々にとっては,使者・客人に〈供給〉することも引出物を提供することも,いずれも使者・客人に対する奉仕である。〈たてまつりもの〉という和訓は,このような慣行を背景として生まれたものと考えられる。
執筆者:早川 庄八
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
経済主体が市場で交換、販売を目的とし、自己の所有物を提供する行為。一般的な交換経済を考えると、代価として相手側の提供するものが高い効用をもつときには、供給しようとする意思は強くなり、供給量は多くなる。現代のような貨幣経済では、相手側の表示するものは価格なので、価格と供給量の関係が得られる。価格が上昇すると供給も増加するのが一般的であり、この関係を関数表示したものが供給関数であり、グラフで示したのが供給曲線である。
[鈴木博夫]
出典 平凡社「普及版 字通」普及版 字通について 情報
…和訓は〈たてまつりもの〉(《類聚名義抄》)。今日〈供給〉はひろく〈需要〉に対する語として用いられる。需要があれば物資を提供するのが供給(きようきゆう)で,その場合,食糧・石油・電力など提供される物資の種類はとくに限定されず,また提供を受ける者は一般の需要者・消費者すなわち不特定多数である。…
…そうした貴人等は,中央から派遣される使者,赴任してきた国司などさまざまであるが,こうした者が目的地に到着すると,人々は自分たちの共同体の境界地点まで出向いてこれを迎え(境迎(さかむかえ)という),その日からはじめて3夜連続の酒食のもてなしをし,多量の引出物を贈るのである。その酒食のもてなしを古くは〈供給(くごう)〉といい,後に落着三日厨(おちつきみつかくりや)と称したが,これは貴人,賓客,まれびとに対する共同体としての奉仕であった。平安時代の末に成った《類聚名義抄》が,〈供給〉の和訓を〈タテマツリモノ〉とし,〈饗〉を〈ミツギモノ,タテマツル〉と読んでいるのは,こうした社会慣行の存在を背景とするのである。…
※「供給」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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