日本大百科全書(ニッポニカ) 「ピサリデス」の意味・わかりやすい解説
ピサリデス
ぴさりです
Christopher A. Pissarides
(1948― )
キプロスとイギリスの二重国籍をもつ経済学者。キプロスのニコシア生まれ。1970年にイギリスのエセックス大学を卒業し、1973年にロンドン・スクール・オブ・エコノミックスで森嶋通夫(もりしまみちお)の門下生として経済学博士号を取得した。その後、ロンドン・スクール・オブ・エコノミックス教授を務める。取引相手を個々に探す(サーチsearch)場合の分析に使うサーチ理論search and matching theoryを労働市場に適用した功績で、ダイヤモンド(マサチューセッツ工科大学教授)、モルテンセン(ノースウエスタン大学教授)とともに2010年のノーベル経済学賞を受賞した。
株式市場のように需要と供給ですぐに価格が決まる市場(ワルラスの一般均衡的取引)ではなく、売り手や買い手が取引相手を個々に探す市場では、商品に関する情報不足や取引成立にコストや時間がかかることで、需要があっても取引が成立しない「市場の摩擦」search frictionsが生じる。労働市場で、求人があるのに大量の失業が存在する状態がこれに該当する。ピサリデスはモルテンセンとともに、サーチ理論を労働市場の分析手法として活用し、失業と求人の併存、失業保険の充実による失業の増大や失業期間の長期化などの現象を巧みに説明するのに成功した。ピサリデスが1990年に著した『Equilibrium Unemployment Theory』(邦訳『均衡失業理論』)は現在、失業問題に関する標準的な参考書になっている。
世界銀行、経済協力開発機構(OECD)、イングランド銀行などの労働政策の顧問なども歴任。ヨーロッパでは、ピサリデスらの分析を基にした求職・求人情報の共有、労働者の技能向上などの雇用政策が功を奏し、イギリス、オランダ、北欧諸国などで失業率の低下につながった。
[矢野 武]