労働者と企業が保険料を支払い、失業対策や職業訓練などに必要な費用を支出する保険制度。国が運営し、国費も投入している。加入者は職を失ったときに失業給付、子育て中に育児休業給付などを受け取れる。このほか雇用調整助成金や職業訓練を行う雇用保険2事業がある。現在の保険料率は労働者が賃金の0・6%、企業が0・95%。
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1947年に日本では初めて導入された失業保険に代わって74年に成立。75年4月から実施された失業を保険事故とする社会保険制度。失業した労働者の生活を保障するための求職者給付が中心となるほか,再就職を促進するための就職促進給付,さらには労働者の職業の安定化を目的とし,事業主単独負担による財源を使って事業主への助成を行う雇用安定,能力開発,雇用福祉の各事業が創設された。その後,人口の高齢化・少子化が進むなかで,高齢労働者や乳児を抱える女性労働者の職業生活の継続を支援することを目的に,94年雇用保険法等の改正が行われ,主要部分は95年4月実施された。新設された雇用継続給付制度は,賃金は低下したが現に雇用中の60歳代前半期の被保険者を対象とする高年齢雇用継続給付と,1歳未満の子の養育のため育児休業中だが,失業状態にはない被保険者を対象とする育児休業給付からなり,保険事故が失業以外に拡大された。94年雇用保険改革は,高年齢者の雇用の安定等に関する法律の改正と並んで,65歳までの継続雇用の推進という政策目的の実現をめざす。他方厚生年金保険など老齢年金支給開始年齢の60歳から65歳への段階的引上げ,60歳代前半層への部分年金制の採用などとも関連している。公的年金保険老齢年金と雇用保険基本手当の重複受給を廃止し,65歳到達を機に雇用・雇用保険から公的年金へと生活手段の移行を行うという図式が背景にある。
雇用保険の保険者は国で,労働省が事務を所管する。労働者を雇用する事業はすべて強制適用対象となるが,一部任意適用事業があり,国,地方公共団体など一定の適用除外事業・労働者がある。65歳以後新たに雇用される者(日雇労働,短時間労働被保険者を除く)も除外される。被保険者は,一般,高年齢継続(65歳到達前からの継続雇用中の),短期雇用特例(季節的雇用または1年未満の短期雇用を常態とする),日雇労働の各被保険者に区分され,さらに前2者は短時間労働被保険者か否かに分けられて,適用・給付条件に違いが生ずる。
失業中の所得保障給付である求職者給付は,一般被保険者の場合基本手当が文字通り基本となる。失業状態にあり,離職前1年間に6ヵ月以上被保険者であったことが受給要件。基本手当日額は,原則として離職前6ヵ月の平均賃金日額の6~8割とされるが,低所得層のほうが給付割合が高い,高年齢者や心身障害者など再就職が難しい人々の給付日数が長いなど,保険的発想が薄められている部分もある。給付日数の最低は90日,最高は300日であるが,各種延長給付制度の適用状況によりさらに最高90日までの延長が認められる。他の3種類の被保険者には,それぞれ高年齢求職者給付金(被保険者期間に応じて50日分~150日分の範囲で支給される一時金),特例一時金,日雇労働求職者給付金が支給される。そのほか技能習得手当,寄宿手当,傷病手当の制度がある。新設の高年齢雇用継続給付は,60歳以上65歳未満の被保険者で60歳時に比べ賃金が85%未満に低下した被保険者期間5年以上の者を対象とし,賃金低下率に応じ現在賃金の最高25%相当額(上限額あり)までの賃金補助を65歳到達まで行う。育児休業給付金の額は2回に分割支給され,合わせて休業前賃金の25%相当額となる。
費用は,事業主と被保険者が分担する保険料および国庫負担金により賄われる。保険料率は,93年度以降当分の間11.5%(一部業種は13.5%または14.5%)に設定され,うち3.5%(一部業種は4.5%)は事業主単独負担で雇用安定事業等の費用に,残りの部分は労使折半負担で失業等給付費用に充てられるが,給付費用の1/4(一般)または1/3(日雇労働者)の8割(93年度以降当分の間)に相当する額の国庫負担金が加わる。雇用保険の給付費支出は1993年度において1兆6263億円,実支出総額の75%,国民可処分所得の0.4%であった。
→失業保険
執筆者:保坂 哲哉
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労働者が失業した場合などの失業等給付および育児休業給付を支給するともに、雇用保険二事業(雇用安定事業、能力開発事業)を行う保険制度。雇用保険法(昭和49年法律第116号)に基づく。従来の失業保険にかわって1975年(昭和50)に発足した。
失業等給付には、失業者への求職者給付のほか、就職促進給付、教育訓練給付、雇用継続給付(高年齢雇用継続給付、介護休業給付)がある。また前記二事業のうち、雇用安定事業には、雇用調整助成金、労働移動や地域雇用開発を支援する助成金等があり、能力開発事業には、職業能力開発施設の設置運営、事業主による能力開発に対する助成金等がある。
雇用保険は、原則としてすべての事業を適用対象としているが、農林水産業の5人未満の個人事業は暫定的に任意適用で、公務員は適用除外になっている。適用事業に雇用される労働者は当然に雇用保険の被保険者になる。なお、従来は適用除外とされていた65歳以降に雇用された者についても、2017年(平成29)1月から、雇用保険が適用されている。
雇用保険の費用は、事業主と被保険者が負担する保険料と国庫負担によりまかなわれる。失業等給付・育児休業給付の保険料率は賃金総額のそれぞれ0.8%・0.4%(2023年度)で、事業主と被保険者が折半して負担する。二事業の保険料率は0.35%(2023年度)で、全額を事業主が負担する。なお、農林水産業、清酒製造業および建設業については、季節的に雇用される者が多く失業の発生率が高いため、やや高い保険料率になっている。失業等給付に対する国庫負担の割合は、給付の種類により異なるが、基本手当の場合は、雇用情勢および雇用保険の財政状況が悪化している場合は4分の1、それ以外は40分の1とされている。なお、上記の国庫負担とは別枠で、一定の条件のもとで、機動的に一般会計から繰り入れることができる。
[山崎泰彦 2023年6月19日]
(桑原靖夫 獨協大学名誉教授 / 2007年)
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