ワルラス(読み)わるらす(英語表記)Marie Esprit Léon Walras

日本大百科全書(ニッポニカ) 「ワルラス」の意味・わかりやすい解説

ワルラス
わるらす
Marie Esprit Léon Walras
(1834―1910)

フランス人で、スイスローザンヌ大学の経済学講座の初代教授となり、一般均衡理論体系を確立し、ローザンヌ学派を創始した経済学者。12月16日北フランスのエブルーに生まれる。父オーギュスト・ワルラスAntoine Auguste Walras(1801―66)も経済学者であり、『富の性質と価値の起源について』De la nature de la richesse et de l'origine de la valeur(1831)、『社会的富の理論について』De la théorie de la richesse sociale(1849)などの著作があり、息子レオンに大きな影響を与えた。レオン・ワルラスは、理工科大学校(エコール・ポリテクニク)の入学試験に失敗し、1854年鉱山学校(エコール・デ・ミーヌ)に入学、専門の勉学をよそにして、文学、歴史などに熱中する数か年を送ったが、58年24歳のとき有名な父との対話により社会科学に専念する決意をした。その後、雑誌記者、会社員、協同組合運動などをしながら研究を進めた。60年には『経済学と正義プルードンの経済学説の批判的検討と反論』L'économie politique et la justice : Examen critique et réfutation des doctrines économiques de M. P.-J. Proudhonを著し、同年ローザンヌで開催された国際租税会議で注目を集めたが、70年にローザンヌ・アカデミー(1891年大学となる)の教授に就任するまでには10余年を要した。

 ローザンヌに移ってからは着実に研究成果をあげた。まず1873年には「交換の数学的理論の原理」を発表して限界効用原理を確立し、ついで二商品交換の理論から多数商品交換の理論へ、またこれら商品が生産されたものであることに着目して、生産要素である土地用役、労働、資本用役の需給量と価格の決定を含む生産理論へ、さらに資本財の生産を扱う資本化の理論へと展開を進め、それらは不朽の名著純粋経済学要論』Éléments d'économie politique pure(1874~77)に結実した。『要論』のあと彼は貨幣理論を追究し、86年には『貨幣理論』Théorie de la monnaieを著したが、92年V・パレートに講座を譲って引退した。しかし、その後も『要論』の改訂を続ける一方論文集社会経済学研究』Études d'économie sociale(1896)、『応用経済学研究』Études d'économie politique appliquée(1898)を編むという学究生活を送り、1910年1月5日レマン湖畔のクラランで75歳の生涯を終えた。

[佐藤豊三郎]

『久武雅夫訳『ワルラス純粋経済学要論』(1983・岩波書店)』『手塚寿郎訳『純粋経済学要論』全2冊(岩波文庫)』『『安井琢磨著作集1 ワルラスをめぐって』(1970・創文社)』『W・ジャッフェ著、安井琢磨・福岡正夫編訳『ワルラス経済学の誕生』(1977・日本経済新聞社)』『根岸隆著『ワルラス経済学入門』(1985・岩波書店)』

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ワルラス」の意味・わかりやすい解説

ワルラス
Walras, (Marie-Esprit-) Léon

[生]1834.12.16. エブルー
[没]1910.1.5. モントルー近郊クララン
フランスの経済学者。ローザンヌ学派の創始者。 A. A.ワルラスの子。パリの鉱山学校中退後,ジャーナリスト,鉄道事務局員,協同組合銀行理事などを経て 1870年ローザンヌ大学経済学講座初代教授に就任し,以降経済学に専心した。経済的与件に変化がなく,完全な自由競争が行われている場合には,経済諸量は需要と供給の一般的な均衡関係を表わす連立方程式体系によって一義的に決定されることを主張する一般均衡理論を樹立した。 C.メンガー,W.ジェボンズと並ぶ限界理論創始者の一人であり,また一般均衡理論の始祖。ワルラスは純粋経済学,応用経済学,社会経済学の3部門から成る経済学体系を構想しており,純粋経済学部分だけが体系化された形で『純粋経済学要論』 Éléments d'économie politique pure,ou théorie de la richesse sociale (1874~77) として公刊されているが,他の部門については論文集として『社会経済学研究』 Études d'économie sociale (96) ,『応用経済学研究』 Études d'économie politique appliquée (98) が出版されている。

ワルラス
Walras, Antoine Auguste

[生]1801. モンペリエ
[没]1866.4.18. エブルー
フランスの教育者,経済学者。 L.ワルラスの父。エコール・ノルマル・シュペリュール (高等師範学校) を卒業し,中学校教師,大学講師として文学,哲学を講じるかたわら経済学に興味をもち,『富の性質と価値の源泉とについて』 De la nature de la richesse,et de l'origine de la valeur (1831) ,『社会的富の理論,経済学の基本原理の要約』 Théorie de la richesse sociale,ou résumé des principes fondamentaux de l'économie politique (49) などを公刊,希少性や価値の心理的説明を展開し,子のレオンに大きな影響を与えた。

出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報

今日のキーワード

マイナ保険証

マイナンバーカードを健康保険証として利用できるようにしたもの。マイナポータルなどで利用登録が必要。令和3年(2021)10月から本格運用開始。マイナンバー保険証。マイナンバーカード健康保険証。...

マイナ保険証の用語解説を読む

コトバンク for iPhone

コトバンク for Android