改訂新版 世界大百科事典 「リューベツァール」の意味・わかりやすい解説
リューベツァール
Rübezahl
ボヘミアとシュレジエンとの境にそびえて,エルベ川の源を擁するリーゼン山地Riesengebirgeに住むといい伝えられてきた山の精。一説にはグノーメン(地の精たち。グノーム)の王ともいう。プレトリウスJohannes Praetorius(1630-80)が1662年以来10年間に発表した計241話の伝説によって広く世に知られるようになった。その名の由来は〈粗毛の尻尾Riebezagel〉であるというのが現代の定説であるが,通俗語源説では〈かぶらRübe〉と結びつけられ(J.K.A. ムゼーウスのメルヘン等),そのせいか薬草や根菜にまつわる話が多い。聖職者,伯,猟人,牧夫などさまざまに姿を変え,山中や村里で,旅人や薬草採り,市や旅籠(はたご)に集まる人々などを,ときには助け,贈物を与え,ときには惑わし揶揄(やゆ)するという。総じて気の善(よ)い山の精であるが,大の犬嫌いで,その領域をゆえなく侵す者,禁忌・約束にそむく者を許さず,とくに〈リューベツァール〉という渾名(あだな)で呼び捨てる者には激しい怒りと罰が襲いかかる。ゆえに山麓の民はかつて〈ヨハネス様〉と呼び敬う習わしであったとかいう。
執筆者:新井 皓士
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報