改訂新版 世界大百科事典 「ロレンツェッティ兄弟」の意味・わかりやすい解説
ロレンツェッティ兄弟 (ロレンツェッティきょうだい)
イタリアの画家兄弟。ピエトロPietro Lorenzetti(?-1348ころ)とアンブロージョAmbrogio L.(?-1348ころ)。前者が兄と考えられる。S.マルティーニと並んで,ドゥッチョ・ディ・ブオニンセーニャに次ぐシエナ派の第2世代に属する。ピエトロはアッシジのサン・フランチェスコ教会下堂の壁画(1320~30年代)や《玉座の聖母子》(1340年,ウフィツィ美術館)などに見られるように,シエナ派特有の線描で輪郭を強調した抽象化された形態の人物に,ジョット風の奥行きのある空間表現を組み合わせた,静謐な雰囲気の宗教画を特色とする。アンブロージョはピエトロに比べてはるかに世俗的・現実的関心が強く,代表作,シエナのパラッツォ・プブリコ(市庁舎)壁画の《善政と悪政の寓意》(1337-39)は,主題が現実に結びついている点においてだけでなく,体系的に遠近法を応用したシエナ市街と郊外の風景描写の豊かな現実感によって,イタリア美術史に新たな局面をひらいた。兄弟は2人ともペストで没したと思われる。
執筆者:鈴木 杜幾子
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報