日本大百科全書(ニッポニカ) 「シエナ派」の意味・わかりやすい解説
シエナ派
しえなは
Scuola Senese
中部イタリア、トスカナ地方の町シエナに輩出した画家の一派。13世紀末から14世紀前半にかけてのイタリア絵画の揺籃(ようらん)期に、ジョットを中心とするフィレンツェ派とともに、イタリア絵画、ひいてはヨーロッパ絵画の形成に大きな役割を果たした。その基礎を築いたのはドゥッチョ・ディ・ブオニンセーニャである。彼はビザンティン風の絵画を洗練し、ジョットの現実感にあふれた力強い表現とは対照的な、優美さや装飾性と人間味がよく調和した繊細な画風を確立した。ドゥッチョの弟子であるシモーネ・マルティーニがこの画風を受け継ぎ、フランス・ゴシック美術の影響のもとに、さらにいっそう洗練の度を加えた。過敏なまでに繊細で、夢幻的な美しさをもったシモーネの芸術において、シエナ派絵画は頂点に達したといえる。彼はジョットとともに、真にイタリア的、ヨーロッパ的画家で、広範な影響を及ぼした。次に重要な画家は、ピエトロとアンブロジオのロレンツェッティ兄弟である。それぞれに個性的な2人は、フィレンツェ派の成果をもよく消化し、ジョットの死後、フィレンツェ派とシエナ派をつなぐ役割を果たすかに思われたが、1348年のペストがその望みを断ってしまった。14世紀には、これら4人の画家の影響のもとにシエナ派は黄金時代を現出し、多くの画家がシエナで活躍した。バルナ・ダ・シエナやバルトロ・ディ・フレディがその代表である。
15世紀に入ると、もはや先取的な役割を果たす画家は出なくなるが、サセッタやジョバンニ・ディ・パオロ、サーノ・ディ・ピエトロ、マッテオ・ディ・ジョバンニ、ネロッチョ・ディ・バルトロメオら独特の幻想性と宗教性をもった、魅力ある画家たちが活躍した。さらに16世紀になると、北イタリア生まれのソドマと、その影響を受けたドメニコ・ベッカフーミが出ている。
[石鍋真澄]