改訂新版 世界大百科事典 「アカマタクロマタ」の意味・わかりやすい解説
アカマタ・クロマタ (あかまた・くろまた)
八重山群島西表(いりおもて)島の古見を中心とする村々で旧6月におこなわれる豊年祭〈プール〉に登場する仮面仮装の神。野生の草木におおわれた全身を微細なリズムに揺らしつつ森の奥深くから村の中に立ち現れるこの仮面神の祭祀には,一定の通過儀礼をへた成人男子の構成する秘密結社の成員だけが直接参与できる。女・子どもは祭祀の中核から排除される。だが興味深いのは,この仮面神自身が排除されたはずの女・子どもの本性につながる外部性,他界性,非社会性などと深い象徴的な結びつきをもっていることである。この祭祀はまず村落の全体を象徴的に二分化しながら,この二分化論理を固定化させない要素を内部に導入し,村の社会的宇宙を分裂的な生成状態として柔らかく作りあげようとしているわけである。この祭祀は厳重な秘儀性と豊かな象徴性をたたえているために,はやくから多くの民俗学者や人類学者の関心をあつめてきた。柳田国男はこの祭祀に日本全土に分布する小正月の子ども行事との関連を考え,折口信夫は彼の説く〈まれびと〉信仰の鮮やかな実証を見,また岡正雄は根茎栽培型南方基層文化の重要なあらわれを指摘した。
→プール
執筆者:中沢 新一
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報