まれびと

改訂新版 世界大百科事典 「まれびと」の意味・わかりやすい解説

まれびと

〈まれびと〉という言葉は,来客あるいは客神をあらわす語として古くからあるが(〈まろうと〉とも),折口信夫古代来訪神の存在を説明するためにこれを用いたことから,〈貴種流離譚(きしゆりゆうりたん)〉などとともに,日本文化・文学の基層を解明するうえでの重要な術語として定着した。〈まれびと〉とは簡単にいえば神であって,海のかなたの〈常世(とこよ)〉から時を定めて訪れて来る霊的存在である,というのが折口の考えたその原像である。〈まれびと〉のくだす宣詞は,この世にあらわれたはじめての文学のことばであると考えてよい。また〈まれびと〉は,今日に残る秋田県男鹿半島の〈なまはげ〉,沖縄県八重山の〈まゆんがなし〉のように,異様な形姿をしたり,祖先神であったりするが,それを村人が演ずる所作は芸能の発生を示すものであった。芸能が村人の手をはなれても,〈まれびと〉が訪れる形式は,専門の〈ほかい〉の集団などに引きつがれており,日本の芸能・文学の基層をつらぬいている。
執筆者:

出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「まれびと」の意味・わかりやすい解説

まれびと

まれに訪れてくる神または聖なる人。日本の古代説話や現行民俗なかに,マレビトの来訪をめぐる習俗が認められる。古代人はマレビトを一定季節に訪れてくる神とし,この世に幸福をもたらすために,海のかなたから訪れるとも,また簑笠で仮装して出現するとも信じていた。現在に伝えられる秋田のなまはげも,マレビト信仰の面影を伝えるものである。 (→来訪神 )  

出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報

日本大百科全書(ニッポニカ) 「まれびと」の意味・わかりやすい解説

まれびと

まろうど

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

世界大百科事典(旧版)内のまれびとの言及

【折口信夫】より

…主著《古代研究》3巻は,1929‐30年に,〈国文学篇〉,〈民俗学篇〉(2冊)が相次いで出された。〈国文学篇〉のなかの主論文〈国文学の発生〉は,神々と古代の村落共同体との交渉の中に文学の発生をきわめようとして,〈まれびと〉=神の来訪とその神授の呪言(じゆごん)なるものをそこに見いだしている。〈民俗学篇〉は神々の憑代(よりしろ)の問題や,琉球の宗教形態について多く筆をついやしているが,信夫が生涯の師とした柳田国男の民俗学とはかなり方法を異にしている。…

【漂泊民】より

…さすらい人。漂泊・遍歴と定住・定着とは,人間の二つの基本的な生活形態である。それゆえ,漂泊民といい,定住民といっても,それは絶対的なものではなく,漂泊についていえば,居所の定まらぬ漂泊,本拠地を持つ遍歴,本拠地を変更するさいの移動,さらに一時的な旅など,さまざまな形態がありうる。しかし,一個の人間にとっても人間の社会においても,またその展開される場や生業のあり方に即しても,漂泊と定住とは,対立・矛盾する生活形態であり,相異なる生活の気分,意識,思想がその中から生まれてくる。…

【来訪神】より

…1年に1度,時を定めて異界から人間の世界に来訪して,さまざまな行為をし,人々に歓待される神々を一般に来訪神とよぶ。来訪神はいわば異人の一種であり,〈まれびと〉である。われわれは,われわれの住む世界が自己(もしくは自己の仲間たち)と異人という二元的構成をとっているとみなしており,異人に対しては畏敬の観念をもつとともにこれを厚くもてなす異人歓待の観念が発達している。…

※「まれびと」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

今日のキーワード

プラチナキャリア

年齢を問わず、多様なキャリア形成で活躍する働き方。企業には専門人材の育成支援やリスキリング(学び直し)の機会提供、女性活躍推進や従業員と役員の接点拡大などが求められる。人材の確保につながり、従業員を...

プラチナキャリアの用語解説を読む

コトバンク for iPhone

コトバンク for Android