アテローム血栓性脳梗塞

内科学 第10版 「アテローム血栓性脳梗塞」の解説

アテローム血栓性脳梗塞(脳血栓)

(2)アテローム血栓性脳梗塞(atherothrombotic infar-ction)
病理
 ①粥腫による狭窄部での血栓形成(in situ thrombosis)による閉塞,②狭窄・閉塞部から遠位への血栓の塞栓(artery-to-artery embolism),③高度狭窄・閉塞部位の遠位に脆弱な側副血行路しか存在しないための低灌流(hemodynamic ischemia)機序が,単独もしくは合併して発症する(図15-5-9B〜D).この機序による分類は治療戦略を練る上で重要である.高血圧,脂質異常症,糖尿病,喫煙などの動脈硬化の危険因子が加齢という時間的積算により,血管内中膜にプラーク・粥腫が形成する(図15-5-9A).狭窄部血栓形成,プラーク破綻と潰瘍形成,プラーク内出血などによる急性血管閉塞などが脳虚血の発端となる.この粥腫の好発部位は血管分岐部であり(図15-5-9E),高度狭窄や閉塞によりあらかじめ支配領域に低灌流があると側副血行路(Willis動脈輪の前・後交通動脈,眼動脈,経硬膜,軟膜髄膜吻合など)が開き,虚血進展の抑制に益する.
臨床症候
 運動性片麻痺,感覚障害に加え意識障害,失語,失行・失認などの皮質症状が突発,進行性または階段状に進む.血管病変による脳梗塞にはそれぞれ特徴的な神経徴候が示される(表15-5-9).頸部内頸動脈狭窄症では血管雑音が聴取できることがある.
画像検査
 CTでは発症1~3時間以上経過してはじめて淡い低吸収域として梗塞巣が検出できる(図15-5-10A).2~3日後に明確な低吸収域となり,2~3週目に等吸収域(fogging effect)に復し,再び低吸収域となる(図15-5-10E).MRI検査は拡散強調画像により発症後少なくとも30分以上経過すれば高信号域として梗塞巣を検出し,CTで検出できない超急性期,小病変,テント下病変の診断に力を発揮する(図15-5-10B,15-5-11A).灌流CT,MRI灌流強調画像,脳血流SPECTにより灌流遅延や局所脳血流低下を描出することができる(図15-5-10C,15-5-13DE,15-5-14CD).脳血管の閉塞や狭窄の評価を頸部超音波やMRA(MR angiography),CTA(CT angiography),脳血管造影により行い,脳梗塞の責任血管に有意狭窄(50%以上の管腔径狭窄)や閉塞を確認することにより診断する(図15-5-10D,15-5-11B〜D,15-5-13BC,15-5-14E).近年,内頸動脈における破綻しやすい不安定プラークは頸部超音波やMRI black blood法などで診断可能となり,経頭蓋ドプラによる狭窄部からの塞栓子の検出を行う経頭蓋ドプラとともに外科治療の選択に重要となっている(図15-5-11E).
鑑別診断
 心原性脳塞栓症とは心房細動や塞栓源性心疾患の合併がないこと,ラクナ梗塞とは病巣の責任血管に有意狭窄(径50%以上)があり,梗塞巣が直径15 mm以上または閉塞部位からの連続性のある梗塞巣であることから,大動脈原性脳塞栓症とは,経食道心臓超音波で大動脈弓複合病変がないことから鑑別できる.心臓大血管手術や血管造影後,blue toeや進行性腎不全,好酸球上昇を伴う脳梗塞は,コレステロール結晶塞栓症を疑う.頭頸部痛を伴う,若年者くも膜下出血を合併する脳梗塞でその責任脳血管に狭窄と拡張を合併する場合(pearl and string sign)は脳動脈解離を疑う.[大槻俊輔・松本昌泰]

出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報

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