日本大百科全書(ニッポニカ) 「エンジェル税制」の意味・わかりやすい解説
エンジェル税制
えんじぇるぜいせい
創業まもない未上場企業に出資した個人投資家(エンジェル)の税負担を軽くする制度。早くから欧米で定着していたが、日本は1997年度(平成9)の税制改正で導入した。根拠法は租税特別措置法と中小企業等経営強化法。個人投資家が投資しやすい環境を整え、ベンチャー企業やスタートアップ企業へリスクマネーを供給し、技術革新や産業活性化を促すねらいがある。べンチャー企業投資促進税制ともよばれ、中小企業に対する税制優遇措置の一つである。
エンジェル税制を活用する個人投資家は、投資時点と投資した企業の株式売却(譲渡)時点の二度、優遇措置を活用できる。投資時点では、所得控除(優遇措置A)と株式売却益控除(優遇措置B)の2種類の優遇措置があり、いずれかを選択できる。優遇措置Aは設立5年未満の企業への投資が対象で、「投資額-2000円」をその年の総所得金額から控除できる(控除対象の投資上限は800万円か総所得金額の40%のいずれか低い金額)。優遇措置Bは、設立10年未満の企業が対象で、対象企業への投資全額がその年の他の株式売却益から控除される。株式売却時の優遇措置は、対象企業の株式売却で生じた損失を、その年のほかの株式売却益と相殺できるほか、売却年に相殺しきれなかった損失を翌年以降3年にわたって相殺できる。個人投資家がエンジェル税制を利用する際、適用対象企業(特定新規中小企業者)かどうかを確認できる事前確認制度がある。個人投資家は適用対象企業から税制適格確認書をもらい、確定申告の際に添付して税制優遇を受ける。2017年度(平成29)の税制改正で、インターネットで小口投資(1人50万円以下)を募るクラウドファンディングがエンジェル税制の対象となり、2020年度(令和2)の税制改正では、提出書類を約20種から5種程度に減らし、税優遇を受けやすくした。アメリカでは、税制上のメリットから、資産家が積極的にベンチャー企業を支援しており、エンジェル投資額は2兆円(2016)を超えているが、日本では45億円(2017)と圧倒的に少ない。
[矢野 武 2020年5月19日]