日本大百科全書(ニッポニカ) 「カーブースの書」の意味・わかりやすい解説
カーブースの書
かーぶーすのしょ
Qābūs-nāme
イランの地方王朝ズィヤール朝君主カイ・カーウースが1082年、愛息のためにペルシア語で執筆した教訓書。「モンゴル侵入以前におけるイラン・イスラム文化の集大成」とも評され、ゲーテがドイツ語訳を読み「評価を絶する優れた書物」と激賞した。44章で構成され、神の認識、預言者の創造、王権の規律、宰相職など帝王学に始まり、性の楽しみ、恋愛、入浴、飲酒の作法、奴隷購入、蓄財など人生万般にわたる教訓が知恵深く叙述されている。各章の初めに「知れ、息子よ」の呼びかけがあり、全編に息子の将来を気遣う父性愛があふれている。理想像を掲げる単なる道徳書ではなく、現実主義者の目で人生の深奥に触れながら諄々(じゅんじゅん)と説く人間学の書。
[黒柳恒男]
『カイ・カーウース、ニザーミー著、黒柳恒男訳『ペルシア逸話集』(平凡社・東洋文庫)』