カーブースの書(読み)かーぶーすのしょ(その他表記)Qābūs-nāme

日本大百科全書(ニッポニカ) 「カーブースの書」の意味・わかりやすい解説

カーブースの書
かーぶーすのしょ
Qābūs-nāme

イランの地方王朝ズィヤール朝君主カイ・カーウースが1082年、愛息のためにペルシア語で執筆した教訓書。「モンゴル侵入以前におけるイラン・イスラム文化の集大成」とも評され、ゲーテがドイツ語訳を読み「評価を絶する優れた書物」と激賞した。44章で構成され、神の認識、預言者の創造、王権規律、宰相職など帝王学に始まり、性の楽しみ、恋愛、入浴飲酒作法、奴隷購入、蓄財など人生万般にわたる教訓が知恵深く叙述されている。各章の初めに「知れ、息子よ」の呼びかけがあり、全編に息子の将来を気遣う父性愛があふれている。理想像を掲げる単なる道徳書ではなく、現実主義者の目で人生の深奥に触れながら諄々(じゅんじゅん)と説く人間学の書。

[黒柳恒男]

『カイ・カーウース、ニザーミー著、黒柳恒男訳『ペルシア逸話集』(平凡社・東洋文庫)』

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

世界大百科事典(旧版)内のカーブースの書の言及

【ジヤール朝】より

…しかし935年に,彼が配下のトルコ人奴隷によって暗殺されて以降は急速に衰退し,サーマーン朝,ガズナ朝の宗主権下に,カスピ海南岸部で辛うじて命脈を保つだけになった。7代目の君主カイ・カーウースKay Qā’ūsが63歳のとき(1082∥83)に愛息に書き残した遺訓の書《カーブースの書Qābūsnāma》は,ペルシア文学の傑作としても有名である。【清水 宏祐】。…

【ペルシア文学】より

…15世紀のティムール朝時代に文化の中心になったヘラートにおいては,古典時代の最後を飾る偉大な神秘主義詩人ジャーミーが現れ,神秘主義長編叙事詩《七つの王座》を作詩した。 散文学は10世紀にアラビア語史書・宗教書のペルシア語訳で始まり,その後ますます興隆して教訓,歴史,詩人伝,地理,神学,物語,旅行記などきわめて多岐にわたる作品が現れ,〈鑑文学〉で知られる《カーブースの書》(カイ・カーウースKay Kā’ūs作)や《政治の書》などは高く評価されるが,全般的に詩に比べると二次的存在であった。しかし13世紀から15世紀にかけてジュワイニーラシード・アッディーンワッサーフハーフィズ・イ・アブルーらの偉大な歴史家たちによる作品はきわめて高い位置を占めている。…

※「カーブースの書」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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