日本大百科全書(ニッポニカ) 「ガラテヤ書」の意味・わかりやすい解説
ガラテヤ書
がらてやしょ
『新約聖書』のなかのパウロ書簡の一つで、比較的短いが、パウロの根本思想を示す重要な手紙であり、「ガラテヤ人(びと)への手紙」ともいわれる。ガラテヤという地名は「ゴール人」(ケルト人)を意味するギリシア語に由来し、紀元前25年ローマ帝国の属州となった小アジア中央部の広い高原地帯をさす。この手紙は、ガラテヤの諸教会あてに書かれているが、それらの教会が実際にあった場所に関しては、北方とする説(北ガラテヤ説)と南方とする説(南ガラテヤ説)とが対立しているため、この手紙が書かれた時期と場所もはっきりと定められない。おそらく紀元後50年代の前半に、エペソ(エフェソス)かコリントで執筆されたものと思われる。内容は、ユダヤ教の律法(戒律)を重視する傾向がふたたび現れ始めたガラテヤの教会に対して、パウロが行った批判である。ここには「ロマ書」と並んで、「人間は、律法の行いによらず、イエス・キリストを信じる信仰によってのみ救われる」という信仰義認論が述べられている。
[土屋 博]