セルロースナノファイバー(英語表記)cellulose nanofiber

知恵蔵の解説

セルロースナノファイバー

主に植物の細胞壁に由来するセルロースから成る、直径数nm(ナノメートル)から100nm、長さが直径の100倍以上の繊維状物質をいう。
一般にナノファイバーとは、直径100nm以下でアスペクト比100以上の長さをもつ物質をいう。原料によって、植物中のセルロースやエビ・カニの殻に含まれるキチンなど、バイオマスから取り出す天然高分子系(バイオ系)ナノファイバー、カーボンナノファイバーやカーボンナノチューブなどの炭素系ナノファイバー、および合成高分子系ナノファイバーに分けられる。原料自体の物性によりナノファイバーの特性は異なり、単独または複合材料として、汎用品から医療や電子工学など先端技術にまで、さまざまな応用に向けた研究開発が行われている。
2000年代に始まるナノテクノロジーの隆盛において、ナノセルロースは04年頃から論文数などが急激に増加してきた。世界的に研究開発が活発化する中で、日本と北欧諸国が先行している。
セルロースナノファイバーには繊維素材として、結晶化しやすく、軽量・高強度・高弾性率など多くの利点がある。重さは鋼鉄の5分の1で強度は5倍である。きわめて薄い膜状に加工でき(比表面積が大きい、250平方m/g以上)、熱による変形が小さい(ガラスの約50分の1)。
セルロースナノファイバーは、パルプのような木材からだけでなく、雑草や野菜・果物の絞りかす、おから、綿製品の古布、稲わらなどさまざまなバイオマスから取り出すことができる。間伐材などの森林資源や、産業廃棄物を含むさまざまな植物資源の有効活用につながり、環境負荷が小さく、持続型資源として注目されている。
植物のセルロース繊維は細胞壁中でお互いに強く結束しており、1本1本を分離して微細化し、ナノファイバーを抽出するには、現在大別して2種類の方法がとられている。一つはパルプを化学処理または酵素処理してから水中で繊維を取り出す(解繊する)方法で、もう一つは前処理をせずにパルプを水中で直接、機械を使ってナノファイバー化する方法である。前者は、東京大学の磯貝明教授らが開発したTEMPO酸化触媒による化学変性法により、世界に先駆けて大きく前進し、この業績により磯貝教授らは、15年9月、「森林・木材科学分野のノーベル賞」といわれるマルクス・バーレンベリ賞をアジアで初めて受賞した。
TEMPO酸化触媒はセルロース繊維どうしの結合をほぐれやすくし、均一なナノレベルの幅まで細かくして容易に取り出すことを可能にする。これによって、セルロースナノファイバーが新規バイオ系ナノ素材として幅広く利用されることとなった。
たとえば薄いシート状に加工すると、透明で強く柔軟性があり、熱膨張率の低い安定なフィルムとなる。このフィルム上に金属の配線を焼き付けて電子回路を作れば、スマートフォンやタブレット端末に応用できる。酸化防止性能が高いことから、食品や医薬品の劣化を防ぐ包装材の開発も進んでいる。
軽さと強度を生かし、自動車のドアやボンネットの材料としてセルロースナノファイバーを樹脂に10%混ぜることで、強度を保ちながら車の重さを20%軽量化し、燃費を向上できるとして産学の共同研究が行われている。大人用の紙おむつも材料としては、繊維が細かいことから、既存の繊維材料には付着できなかった微細な消臭物質や抗菌物質を取り込ませてシート化し、消臭・抗菌機能が高い製品が商品化されている。このほか、かすれないボールペンのゲルインクや、敏感肌用化粧品、軽量化した競技用シューズのゴム底など、実用化に至る製品が多数出ている。植物由来であることから生体に親和性があり、人体に取り込まれても害が小さいため、人工血管や軟骨など医療用材料としての応用も検討されている。日本では経済産業省や環境省など五つの省庁が連携し、企業の後押しを始めている。
今後、量産化によって素材価格が低下すれば、実用化・事業化する分野がさらに広がり、30年には市場規模が1兆円に達するとの予測もある。

(葛西奈津子 フリーランスライター/2018年)

出典 (株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」知恵蔵について 情報

朝日新聞掲載「キーワード」の解説

セルロースナノファイバー

植物の細胞壁を構成するセルロースを細かくした繊維。太さは約10ナノメートル(ナノは10億分の1)。木材から取り出したパルプをほぐして作られる。プラスチックやゴムに混ぜると強度が上がり、熱による伸び縮みも小さくなる。2004年ごろから研究が本格化し、米国や中国、北欧も開発に注力している。

(2017-01-04 朝日新聞 朝刊 3総合)

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