日本大百科全書(ニッポニカ) 「セルロース繊維」の意味・わかりやすい解説
セルロース繊維
せるろーすせんい
cellulose fiber
セルロースをもとにした繊維の総称。衣料やインテリア向けの糸、綿火薬、各種の紙やフィルターの原材料として使われている。綿などの種子毛繊維、リネンやラミーをはじめとする靱皮(じんぴ)繊維、バナナなどの葉脈繊維といった植物繊維や酢酸菌などの動物繊維と、樹木や木材パルプの天然セルロースを溶剤で溶かし、細く長い連続した繊維を人工的に製造した再生繊維とに大別されるが、通常は後者をさす場合が多い。これらのセルロース繊維には、ビスコースレーヨンやポリノジック、キュプラ、テンセル(リヨセル)などがある。また、アセテートはセルロースを原料にしているものの、化学組成がセルロースから変化しているため、半合成繊維に分類される。
セルロース繊維は、19世紀のヨーロッパにおいて絹糸にかわる人造繊維として研究が進められた。1884年にフランスのシャルドンネが、硝酸セルロースからレーヨンの製造に成功すると、その後20世紀初頭にかけてキュプラ、ビスコースレーヨンなどが開発され、相次いで量産技術が実現された。20世紀後半には自然環境への負担の少ない製造法として有機溶剤紡糸法が編み出され、指定外繊維のテンセル、竹を原料としたバンブー繊維、アオイ科の一年草を主原料としたケナフなどが開発されている。
[編集部 2016年9月16日]
セルロースナノファイバーcellulose nanofiber
ナノファイバーの一種。略称CNF。超微細植物結晶繊維のこと。セルロース分子の集合体である結晶性セルロースミクロフィブリル(微細繊維)を、化学的、機械的に解繊したもの。この極細繊維状物質がナノサイズの非常に細い繊維であることから、セルロースナノファイバーとよばれる。また、強固に結合しているミクロフィブリルを解繊することで得られる、一本一本のナノファイバーのことを、セルロースシングルナノファイバー(CSNF)ともいう。CNFは平均幅がおよそ1~20ナノメートル、長さの平均がおよそ0.5~数マイクロメートルと微細であり、結晶化度が高いため、軽量であっても鋼鉄の5~10倍の強度を有し、熱にも強いという特性がある。このような繊維の強さは、カーボンナノチューブやアラミド繊維といった超高強度繊維と同程度に達するもので、人工的には得がたいものである。さらに、植物由来で持続可能な入手しやすい資源から得られるものであるため、従来の材料と比較して、10分の1程度の価格で供給できると見込まれている。すでにエレクトロニクスや化学原料、基礎資材、医療やバイオなどの分野で実用化されつつあり、さらに多くの分野で原料や素材として広く活用されることが期待されている。
CNFは1977年にアメリカのターバックAlbin F. Turbak(1929― )らの研究チームがセルロースミクロフィブリルを容易に取り出すことに成功し、2000年以降、日本が中心となり、スウェーデン、フィンランド、アメリカ、カナダなどで、製造および応用技術に関する研究開発が進められきた。
日本では、2008年(平成20)に東京大学大学院教授の磯貝明(いそがいあきら)(1954― )らの研究チームが、天然セルロースを高効率にナノレベルまで解繊し、ナノ素材として幅広く利用できる研究成果を導いた。磯貝と准教授の齋藤継之(さいとうつぐゆき)(1978― )、元・同研究科助教授の西山義春(1972― 。現・フランス国立科学研究庁植物高分子研究所上級研究員)の三人は、この業績により、マルクス・バーレンベリ賞(スウェーデン)を2015年(平成27)に受賞した。日本政府のCNFに対する期待は大きく、経済産業省では、2030年までに年間1兆円のCNF関連材料市場の創造を目ざし、高度バイオマス産業創造戦略を提示している。
[編集部 2016年9月16日]