タイヤ(読み)たいや(英語表記)tire

翻訳|tire

日本大百科全書(ニッポニカ) 「タイヤ」の意味・わかりやすい解説

タイヤ
たいや
tire
tyre

陸上を走行する輸送機械の車輪の、路面に接し、かつ交換できる部分の総称。鉄道車両においても、車軸に固定される車輪に対して、直接レールに接し、摩耗した場合に焼きばめの工法で交換する鋼鉄製の輪をタイヤという。しかし一般的には、自動車オートバイ、自転車などの、ゴム製空気入りタイヤをさす。歴史的には、空気を入れないでゴムだけのものや、内部にスポンジを満たしたソリッドタイヤも使われたが、今日ではほとんどみられないので、ここでは自動車用の空気入りタイヤについて述べる。

[高島鎮雄]

沿革

馬車時代の車輪は接地面に鉄の輪をはめた木製であったが、馬車は馬に牽引(けんいん)されるので、車輪はただ重量を支えるだけでよかった。しかし自動車は車輪を回すことによって走行し、また車輪の向きを変えて操向するので、路面との摩擦が必要になり、新しい材質が求められた。ゴム製のソリッドタイヤは1867年にイギリスのトンプソンR. W. Thompsonによって実用化された。トンプソンは1846年に空気入りタイヤの特許も取得していたが、実用化には至らず、トンプソンの特許を知らないままに1888年に空気入りタイヤを再度発明した同じイギリスのダンロップが空気入りタイヤの開発者となった。さらに1895年史上初の本格的自動車レースがパリ―ボルドー―パリで行われた際、自製の空気入りタイヤ付きの「エクレール号」(プジョーの車体にダイムラーのエンジンを搭載)を走らせて、自動車への応用と普及に大きく貢献したのは、フランスのアンドレとエドゥアールのミシュラン兄弟André Michelin(1853―1931)、Édouard Michelin(1859―1940)であった。

[高島鎮雄]

構造

自動車の車輪は、金属製のホイール(車輪)と、空気の入るゴム製の袋状の輪であるチューブ、それを包み、路面と接するタイヤからなる(ただし今日では、ホイールとタイヤの間を気密にし、別体のチューブを廃したチューブレスタイヤもある)。タイヤの役目は、内部のチューブを守って、(1)路面の凹凸を吸収し、乗り心地をよくし、自動車そのものの疲労を減らす、(2)路面との摩擦をよくして、駆動力、制動力、操向性を高める、などである。タイヤはトレッドtread、カーカスcarcass、ビードbeadの三つの部分からなる。

[高島鎮雄]

トレッド

路面と接する踏面(とうめん)で、自動車の速度・加速力などの速度性能、制動力、操向性能、方向安定性などを左右するきわめて重要な部分である。まったく同じ車でも、タイヤの違いによって加速性能や直進安定性、コーナーを回る速度、制動距離などに大きな差が生じる。したがって摩擦力が高い反面、耐摩耗性にも優れるという二律背反的な要求にこたえるゴムの材質が選ばれる。また重荷重で真夏の舗装路を走ってきたトラックのタイヤの上にフライパンをのせれば、目玉焼きができるほどの高熱になるので、耐熱性も必要である。

 トレッドには、摩擦力を高め、駆動力、制動力、方向保持性などをよくするために、さまざまな滑り止めトレッドパターンtread pattern(溝の模様)が刻まれている。代表的なパターンは次の三つである。

(1)リブrib タイヤの回転方向に連続した溝と「うね」をもつもので、回転がスムーズで操向性、方向保持性に優れる。主としてオートバイの前輪などに使う。

(2)ラグlug リブとは反対に、回転方向に直角に断続的な溝や「うね」をもつもので、駆動力、牽引力に優れ、悪路の踏破性も高い。ジープ型4WDオフロード車のタイヤが代表的である。

(3)ブロックblock リブとラグの両パターンを組み合わせたもので、独立したキャラメルの粒のようなブロックからなる。空転しやすい雪上用のスノータイヤや、砂地用タイヤにみられる。

一般の乗用車用タイヤはこれら三つを適宜組み合わせたパターンを用いている。

 トレッドパターンによってさまざまな性能が変わってくるほか、騒音、発熱などの性質も変わり、一定の速度でタイヤが一種の共振現象をおこして接地性が失われるスタンディングウェーブstanding waveをおこすこともある。そのためトレッドパターンには各社が独自のノウハウをもっている。騒音、発熱、スタンディングウェーブなどの対策としては、トレッドパターンを完全に同一の連続模様にしないで、形や間隔をやや不均一にする方法などがとられている。もう一つ、トレッドパターンで重要なのは排水性である。雨天などで路面に水膜のできている所を車が高速で走ると、踏面と路面との間の水が逃げ切れず、タイヤが浮き、ステアリングブレーキも効かなくなる。これがハイドロプレーニングhydroplaningまたはアクアプレーニングaquaplaningとよばれる現象で、日本での実験では、車両総重量10トンを超えるバスでさえおこすことが確認されている。むろんそのような状況下では速度を落とすべきだが、タイヤの設計上からは、瞬間的に水を逃がしうるトレッドパターンが望まれる。

 また究極的な性能を追求したタイヤとして、トレッドパターンが左右非対称であったり、回転方向を指定したものもある。その種のタイヤでは、偏摩耗を防ぐための定期的ローテーション(位置変更)はできない。

[高島鎮雄]

カーカス

ゴムの中に鋳込まれた、いわばタイヤの骨格で、チューブ内の空気と路面との間にあって絶え間ない変形を強いられるので、きわめてじょうぶにつくられる。コードcordとよばれる織布を何枚も重ねてつくられ、素材は昔は木綿であったが、今日ではレーヨン、ナイロン、ポリエステルなどが使われている。またごく細い鋼線を撚(よ)り合わせた、いわゆるスチールコードもみられる。

 従来のタイヤではコードの織布がバイヤス(織り目がタイヤの回転方向に対して斜め)に入っていた。この形式をクロスプライタイヤという。これに対して現在の高性能タイヤでは、織布の織り目が回転方向に直角に鋳込まれている。これがラジアルプライタイヤ(一般にラジアルタイヤ)で、多少乗り心地は硬いが、サイドウォール(側壁)の剛性が高くなるので、コーナーで遠心力に耐える力が強く、耐久性も増す。

[高島鎮雄]

ビード

カーカスのコードの端が巻き込まれた、いわばタイヤの背骨部分で、それによってタイヤが車輪のリム部に取り付けられる。内部は数十本のピアノ線で補強されている。

[高島鎮雄]

傾向と注意点

ラジアルタイヤの普及、タイヤ断面の高さと幅の比である扁平率が0.65、0.6といったロープロファイルタイヤの流行、トランクスペースを節約するスペースセーバー型スペアタイヤの実用化などがみられる。また、パンクしてもそのまま高速を保って相当距離を安全に走れるランフラットタイヤや、タイヤの空気圧低下をドライバーに知らせる警告装置も実用化されている。

 タイヤ使用上の注意としては、(1)命を預けるものであるから、できるだけグレードの高いもの、品質のよいものを装着すること、(2)前後あるいは左右でグレードや摩耗度の違うものを使わないこと、(3)前後でサイズが違う車や、回転方向の指定されているタイヤ以外では、定期的にローテーションを行って均等に使用すること、(4)毎朝走り始める前に4本のタイヤを調べ、残り溝の深さ、傷の有無、小石をかんでいないかなどチェックすること、(5)定期的に空気圧をチェックし、とくに高速で長時間連続走行する際には空気圧をやや高めて発熱を抑えること、などが必要である。

[高島鎮雄]


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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「タイヤ」の意味・わかりやすい解説

タイヤ
tire; tyre

車輪の外側の円環部分をいうが,一般には自動車や自転車に使用されるゴム製のものをさす。これには空気入りタイヤ pneumatic tireと空気を入れずに用いるソリッド・ラバー・タイヤがある。空気入りタイヤの最初の特許権は 1845年イギリスで R. W.トムソンが取得,ブルーム型馬車に取付けられて 1920km走行したが,当時はまだ同人のソリッド・ラバー・タイヤのほうが人気があり,ほとんど半世紀の間,空気入りタイヤは人々から忘れられていた。 19世紀後半になって自転車の人気が高まり,88年に J. B.ダンロップが自転車の空気入りタイヤの特許権を取得。フランスのミシュラン社はこれを自動車に初めて応用し,空気圧を維持するためのインナーチューブとそれを被覆保護する外側のタイヤから成るものをつくり上げた。 1950年代にチューブレスタイヤが登場。その後に開発されたラジアルタイヤとともに,耐久性,耐パンク性,経済性などの面から急速に普及した。そのほかにも氷雪路用のスノータイヤやスタッドレスタイヤが考案されるなど,タイヤは自動車の発達とともに進歩を続けている。

出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報

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