改訂新版 世界大百科事典 「センモウチュウ」の意味・わかりやすい解説
センモウチュウ (旋毛虫)
Trichinella spiralis
線形動物双器綱センモウチュウ科の1種。寄生虫の一つで,ヒトその他多くの哺乳類が感染する。成虫の大きさは,雄が長さ1.4~1.6mm,幅0.04~0.06mm,雌が長さ3~4mm,幅0.06~0.07mm。ヒトへの感染は,ブタ,イノシシ,クマ,ウマなどの生肉,加熱不十分な肉料理,乾燥肉,塩蔵肉などを食べることによって起こる。被包に包まれた幼虫を有する肉を食べると,幼虫は小腸内で消化液の作用で被包から出て小腸粘膜に侵入し,数日以内に成虫となり交尾する。雌は,腸間膜リンパ節などで幼虫を産む。幼虫は体内を移行し,横紋筋に侵入する。筋細胞は被包物質を幼虫の回りに沈着させて,幼虫を包み込む。被包内にある幼虫は何年も生存して,次の宿主に食われるのを待つ。ヒトが感染すると,成虫の発育に伴う嘔吐,下痢などの消化器系症状と,幼虫の筋肉侵入に伴う高熱,筋肉痛,浮腫などの症状が生じ,死亡する場合もある。的確な治療法はない。欧米では重大な寄生虫病であるが,日本ではほとんど症例をみない。
執筆者:川口 啓明
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報