日本大百科全書(ニッポニカ) 「ソチ(阿呆劇)」の意味・わかりやすい解説
ソチ(阿呆劇)
そち
sotie フランス語
sottie フランス語
(1)中世喜劇の一ジャンルである阿呆(あほう)劇のこと。15世紀の後半に発展し、16世紀初頭に最盛期を迎えた。演じる「阿呆」sotsは、鈴のついた黄色と緑色の2色に分かれた服を着、ロバの耳のついた帽子をかぶり、道化杖(つえ)を携え、つまさきを軸にして旋回をしたり、跳ね回ったり、わいせつなしぐさをまねたりする。聖史劇などの上演の前に、客寄せに使われた。「阿呆」は、口上を述べながら脱線し、人を笑わせ、地口(じぐち)を連発するが、彼らは教会を破門された者だから、自由奔放に世の中の仕組みを批判する。弁護士から医者、神父、ついには国王や法王までも嘲罵(ちょうば)の対象としたので、フランソア1世が彼らの社会風刺を禁じた。(2)フランスの作家アンドレ・ジッドは自分の作品を分類して、『パリュード』(1895)、『鎖を解かれたプロメテ』(1899)、『法王庁の抜け穴』(1914)をソチとよんだが、これは阿呆劇と直接関係はない。しかしこの三作は、風刺の色が甚だ濃く、法王も対象となった。ジッドは、これらの作品を通して、自意識の袋小路からの脱出を模索したのである。
[白井浩司]
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