化学辞典 第2版 「フーリエ変換分光法」の解説
フーリエ変換分光法
フーリエヘンカンブンコウホウ
Fourier transform spectroscopy
単にフーリエ分光法とよばれることも多い.測定する光を波数で分光せずにそのまま二つの光束に分け,光路差を与えてから互いに干渉させ,光路差の関数として干渉パターンをとる.これをコンピューターでフーリエ変換して波数スペクトルとする分光法.一見,遠まわりの方法であるが,全波長域の同時測光が可能であり,干渉計を使うので光学系を明るくすることができる.そのため,微弱光の分光測定には有力な方法で,天体観測や大気中に存在する微量成分の測定などに用いられている.測定原理を図によって簡単に説明する.
まず,スペクトル分布がS(σ)(σ:波数)である入射光はビームスプリッターによって2光束に分けられる.一方は固定された鏡で反射され,他方は動いている鏡から反射されてから2光束が一緒になる.すると,光路差xに依存して干渉パターンの強度I(x)が変化する.I(x)は次のように表すことができる.
xの変化によって変動する部分F(x)は次のように書ける.
F(x) = 2I(x) - ∫0∞S(σ)dσ
= ∫0∞S(σ)cos 2πxσdσ
F(x)をインターフェログラムという.いま,σ > 0において
Se(σ) = (1/2)S(σ)
σ < 0において
Se(σ) = Se(-σ)
であるような関数 Se(σ)をS(σ)のかわりに用いると,F(x)と Se(σ)は次のフーリエ変換を満足する.
F(x) = ∫-∞∞Se(σ)exp(2πiσx)dσ
Se(σ) = ∫-∞∞F(x)exp(-2πiσx)dx
それゆえ,F(x)が求まればコンピューターを用いて積分計算し,S(σ)が求まる.しかし,実際にはxを無限大まで動かすことはできないから,装置特有の装置関数を用いて補正する必要がある.このような計算技術は近年いちじるしく発達した.フーリエ変換を行う際のアルゴリズムについても同様で,従来の方式よりも速いFFT(高速フーリエ変換)が開発され,計算時間が大幅に短くなっている.フーリエ変換赤外分光光度計(FT-IR)はすでに市販されているが,光路差の正確な測定にレーザー光の干渉パターンを用い,繰り返し測定の開始点を定める方法として白色光の干渉パターンのもっとも明るい位置(center burst)を利用するなど,種々工夫がこらされている.従来の赤外分光光度計と比べて測定時間がはるかに短く,感度も10倍に及ぶものがつくられている.
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報