電磁波の波動性やその重畳性を実証するため,19世紀初頭ヤングT.Youngの複スリットやフレネルA.Fresnelの複プリズムによる光波干渉実験が行われて以来,種々の干渉実験が行われている。これらの実験セットを干渉計と呼んでもさしつかえないが,一般には光の干渉作用を物理や化学諸量の測定に利用することを目的として組み立てられた光学装置を指すことが多い。干渉計の原理は,一つの光源からの光を複数光束に分割して相互間に一定の位相差を与え,再度会合させることにより干渉縞を得ようとするものである。光束を分割する方法は三つに分けられ,上述した複スリットや複プリズムなどによる光束分割を波面分割,半透鏡などによって光の振幅を分割することを振幅分割,偏光素子を用いて独立な偏光成分に分けることを偏光分割と呼ぶ。これら分割法や干渉縞の現れ方などによって干渉計は多くの種類に分けられ,これまでに20種類以上の考案者の名を冠した装置が世に出ている。また分割法いかんにかかわらず,結果的に2光束が干渉する方式のものを2光束干渉計,多数の光束が干渉する形のものを多光束干渉計という。ここでは振幅分割型の代表的なものをいくつか取り上げておく。
振幅分割型2光束干渉計の代表ともいえるもので,最初マイケルソン=モーリーの実験に使われ,その後光応用計測に広く使われるようになった。マイケルソン干渉計は,図1-aに示すように広がった光源(小さな光源と拡散板の組合せでもよい)を用い,光軸に対して45度の傾きをもつ半透鏡(ビームスプリッター)によって2光束に振幅分割した後,平面鏡M1M2によって元方向に折り返し,再度同じ半透鏡(ビームコンバイナーとして働く)で会合させて光源と直角の方向から望遠光学系で観測する。図1-bは干渉縞生成の光学的原理図であり,M1とM2′(M2の半透鏡に対する鏡像)が完全に平行であれば干渉縞は光軸を中心とした同心円状となって無限遠の位置に見える(図1-aでは望遠レンズTとスクリーンPの組合せとなっている)。このような干渉縞は一般に等傾干渉縞と呼ばれている。いま波長λの単色光源を用いるとすると,
2dcosθ=mλ (mは整数)
が図1-bでは明輪を生ずる条件である。図1-aに示した実際のマイケルソン干渉計においては,反射時の光波の位相飛びの関係から上記条件では暗輪を生ずる。一つの光束中に入っている透明平行平面板Cはビームスプリッター基板による光路差の不平衡を補正するための補正板であり,白色光を観測するときに起こる基板の分散効果を相殺するためのものである。マイケルソン干渉計は長さ測定や分光測定などに用いられる。
マイケルソン干渉計の光導入部に点光源とコリメーターを用い,図2に示すようにほぼ完全な平行光束が干渉光学系に入るようにしたのがトワイマン=グリーンTwyman-Greenの干渉計である。点光源Sが結像する位置,すなわちL2の焦点位置に目を置いて観測するので,平面鏡M1とM2の半透鏡に対する鏡像M2′が完全平行の場合,2光束間の光路差に応じ視野全体がある一様の明るさ(あるいは暗さ)となって干渉縞は見えない。もし平面鏡の一つをわずか傾けると等間隔の平行直線干渉縞が現れるが,これは平面鏡の傾きにより生じた光軸方向に対する鏡の高さの差の分布を表すとみてよい(等厚干渉縞という)。したがって一つの光束中に不均質な透明物体を入れるとその光束中の波面が乱され,2光束の光路差(試験光束は物体中を2回通過する点に注意)を等高線表示する形の干渉縞が現れることがわかる。この場合,他方の光束(参照光束)の波面が基準となっている。この干渉計はレンズの収差や脈理の検査などによく用いられる。
マイケルソン干渉計では1枚の半透鏡をビームスプリッターとビームコンバイナーに併用している。マッハ=ツェンダーMach-Zehnder干渉計ではスプリッターとコンバイナーに別々の半透鏡を用い,2光束を大きく離した図3の構成をとっている。したがって試験物体として大きなものを用いることができるうえ,マイケルソン干渉計と違って試験物体を1方向からのみ光束が通る点など便利な点が多い。したがって風洞中の流体計測や超高温プラズマ計測など大型実験に用いられている。
ジャマンJamin干渉計は,干渉屈折計ともいわれており,干渉縞を気体屈折率の精密測定に利用するため,マイケルソン干渉計よりも以前に考案されたものである。2枚の厚い透明平行平面板のそれぞれをビームスプリッターおよびビームコンバイナーとして用いるものであり,図4のように構成される。広がりのある光源からの光は,ビームスプリッターG1で二つの平行光束となり,再度スプリッターと同一寸法をもつコンバイナーG2で会合して望遠光学系に入る。もし平行平面板がまったく平行に置かれていれば二つの光路差は同じであって干渉縞は生じない。しかし,G2をわずか回転すると回転軸に平行な直線干渉縞が無限遠位置に観測される。これは一見等厚干渉縞のように見えるが,二つの光束は平行であって等傾干渉縞である点に注意すべきである。いま光束中に置いた同じ長さtの2本の吸収管の一方を真空にし,他方に屈折率nの気体を入れたとき干渉縞の移動量⊿mは,
⊿m=(n-1)t
で表されるので,これからnが求められる。
これまでの2光束干渉計では単色光に対する干渉縞の強度分布は正弦波状となるが,光束を多数分割した後,それぞれにある一定の光路差をもたせた後干渉させると,干渉縞の強度分布は先鋭となり縞の分離がよくなると同時に移動量の測定が容易となる。これが多光束干渉の特長である。多光束干渉を利用した干渉計の代表格がファブリー=ペローFabry-Perot干渉計である。広がった光源に対して同心円状の等傾干渉縞を生ずる。
→エタロン →干渉分光法 →電波干渉計
執筆者:南 茂夫
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
光の波動が重なったときにおこる干渉作用を利用して、長さ(距離)、表面形状や屈折率の測定、さらにスペクトル線の微細構造などを調べる装置。マイケルソン型、ジャマン型、ファブリ‐ペロ型、ルンマー‐ゲールケ型など種々の装置が考案されている。
二つの単色の光波が重なったとき、波の干渉によって新しい光波がつくられるが、二つの入射光波の間の位相関係によって、振幅に強弱を生ずる。一つの光源からの光を二つの光路に分け、ある長さを進んだあとでふたたび合致させ、干渉波をつくると、分かれていた間に通過した光路の長さの差によって、干渉波に強弱ができる。したがって、光路の差を徐々に変えていくと、干渉波の強度が波形に変化した図形を得られる。また干渉波のつくられる場所に従って、光路差が異なっているときは、空間的な縞(しま)模様が観測される。これらを干渉縞という。光路差が一定量だけ順次に異なっている多数の波が干渉した場合には、結果として得られる干渉縞は鋭い細かい線からできている。回折格子によってつくられるスペクトル線の像は、多数のスリット(溝)によって回折された光波間の干渉の結果つくられるので、細かい線となって現れたものである。
[尾中龍猛]
『D・マラカラ著、成相恭二・清原順子・辻内順平訳『光学実験・測定法』Ⅰ、Ⅱ(2010・アドコム・メディア)』
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光の屈折率や波長測定のための光学器械.一つの光源からの光を鏡や複プリズムなどによって二つ以上の光路に分け,これをふたたび集めると光の干渉による明暗のしまが見られる.このしまの位置から光路にある媒質の屈折率を測定する干渉屈折計と,光の波長を測定する干渉分光器がある.マイケルソン干渉計,フレネルの複プリズム,ファブリ-ペロー干渉計,ルンマー-ゲルケ干渉計などがある.
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報
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