日本大百科全書(ニッポニカ) 「ペイター」の意味・わかりやすい解説
ペイター
ぺいたー
Walter Horatio Pater
(1839―1894)
イギリスの批評家、小説家。オランダ系医師の子としてロンドンに生まれる。オックスフォード大学に学び、ブレズノーズ学寮の特別研究員として思索と執筆の生涯を送った。『ルネサンス史研究』(1873。のちに『ルネサンス』と改題)は、フランス中世の古譚(こたん)からルネサンス期の芸術家を経て18世紀ウィンケルマンに及ぶ目録からも、明らかに客観的な歴史研究ではなく、M・アーノルドの人生論的批評とラファエル前派に代表される当時の審美主義とを結び付けた思想的な作品で、作者の強烈な主張と個性的な文体は、一方では青年を誤らせる危険な書との非難を浴びながらも、印象主義批評の先駆としてイギリスの世紀末に大きな影響を与えた。長編小説『エピキュリアン・マリウス』(1885)、短編集『想像による画像』(1887)、批評集『鑑賞』(1889)、『プラトンとプラトン思想』(1893)など、ペイターの作品は小説であると批評であるとを問わず、すべて作者の想像力と主観に満ちた一種の「想像による画像」であって、かかるロマン主義的姿勢がT・S・エリオットなどから厳しく批判されたが、一方熱烈な支持者の絶えない理由でもある。
[前川祐一]
『別宮貞徳訳『ルネサンス』(冨山房百科文庫)』▽『工藤好美訳『享楽主義者マリウス』(1985・南雲堂)』