日本大百科全書(ニッポニカ) 「両側波帯伝送」の意味・わかりやすい解説
両側波帯伝送
りょうそくはたいでんそう
double side band transmission
搬送波を信号波電流で振幅変調するときスペクトラムのうえで搬送波の両側に側波帯を生じるが、これを搬送波とともに伝送する方式。略してDSBという。
本来、振幅変調は、信号波電流によって搬送波の振幅を変化させ、その包絡線が信号波電流の強弱と一致するようにした変調方式である。このように変調された被変調波は三つの周波数スペクトラムによって構成されているのであるが、搬送波を振幅変調したにもかかわらず、スペクトラムに分解すると搬送波の振幅にはなんの変化も生じていない。信号波電流の変化にしたがって両側波帯は周波数も振幅も対称的に変化し、信号の周波数を伝える情報は搬送波周波数との差の形で被変調波に含まれ、振幅を伝える情報は側波帯の振幅の形でそれに含まれる。このように振幅変調では搬送波は信号を直接伝えることはないし、全電力の6割以上をつねに含むものである。側波帯についても、信号に含まれる情報は両側波帯にほぼ同じ形で包含されている。このため搬送波といずれか一方の側波帯は伝送しなくても信号の伝達は可能であるという考えで単側波帯伝送方式(SSB方式)が実用化された。しかしこの方式では、受信機内で発生させ混合させる搬送波を、送信側のそれと周波数も位相もぴったりあわせることができないため、受信音質が相当程度悪化することは避けられない。
ラジオ放送のように音質を重要視する場合には、このようなSSB方式は好ましくないので、搬送波と両側波帯を含む形式のままで伝送する。つまり、電力効率はすこぶる悪いが、簡易な受信機で良好な音質を得ることができる伝送方式といえよう。
[石島 巖]