改訂新版 世界大百科事典 「他殖性植物」の意味・わかりやすい解説
他殖性植物 (たしょくせいしょくぶつ)
allogamous plant
おもに他殖によって生殖する被子植物のこと。別の個体間の受精を他家受精といい,この形式による生殖を他殖という。これに対して同一個体内での受精を自家受精といい,おもにこの形式によって生殖する被子植物を自殖性植物という。生物種の分化過程では自殖性植物が被子植物の原型であり,その後いろいろの花器形態に分化した他殖性植物ができたものと推測されている。雌雄異株は雌花と雄花が別の個体にできるから他殖性で,ホウレンソウ,ホップなどがある。雌雄異花は同一個体の中で雌花と雄花ができるもので,キュウリ,トウモロコシなどがあるが,雄花のほうが雌花よりも早く熟して(雄性先熟),他家受精になる。また雌雄が一つの花の中にある両全花の植物でも雄性先熟のために他殖性となるタマネギ,ニンジン,自家不和合性のために他殖性となるキャベツ,ハクサイなどの例がある。他殖性植物の交雑は,花粉が風で運ばれたり(風媒),昆虫によって運ばれたり(虫媒)して行われる。
執筆者:武田 元吉
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報