先天性血栓傾向

内科学 第10版 「先天性血栓傾向」の解説

先天性血栓傾向(凝固線溶系の疾患各論)

 外傷などにより血管が破綻したとき,血液の漏出をくいとめるため,血管破綻部位にすみやかに血栓が形成される一方,生理的な状況下で血管内に血栓ができないように,また血管傷害部位にできた血栓が破綻していない部位まで広がらないように凝固阻止因子が制御している.さらに線溶因子が不要な血栓の溶解を担っている.したがって,凝固制御因子や線溶因子の先天的な欠乏や機能低下があると血栓傾向(血栓性素因:thrombophiliaともよばれる)が起こる.凝固因子の増加や特異的な分子異常により血栓傾向が起こることもある.血栓は深部静脈(特に右下肢)と肺に多発するが,血流が緩慢な脳矢状静脈や上腸間膜静脈など一般的には血栓症の発症がまれな部位にも血栓ができるのが特徴である.動脈血栓はまれである.これは静脈系の血栓では血液凝固系の活性化が重要なのに対して,動脈血栓では主として血小板の活性化が引き金となることを反映している.家系内に血栓傾向を認めることが多いが,患者と同じ遺伝性素因をもちながらまったく血栓症状を示さない家族もおり,血栓の発症には感染,外傷,手術,妊娠,経口避妊薬服用など何らかの誘因が働いていることが少なくない.発症年齢は15歳以降50歳までに多く,同一患者においてしばしば再発がみられる.[白幡 聡]

出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報

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